第6話

 その問いに、ユーゴはまるで良い質問だ、とでも言わんばかりに鷹揚に大きく一つ、頷いて見せた。

 褒められたって、かけらも嬉しくはない。


「『落ち人』には、多属性持ちが多いのだ」


 さっぱり意味がわからない。


「ええと、出来れば、もっと根本的なところから……」

「焦るな、今から説明する」


 ユーゴはわかっていると言わんばかりに微笑んだ。

 わかっているなら、もう少し混乱を避ける説明の仕方をしてくれ。

 心の中でつぶやいた文句は、今回もユーゴに伝わってしまったのか、軽く睨まれた。

 首をすくめる。

 なんだ、千里眼か、テレパスなのか。


「先も説明した通り、俺の立場は微妙だ。引き取られたのは最近で、正直な話、まぁ、味方が足りない」


 話をさっさと進めてしまいたかったのか、ユーゴは言葉を続けた。


「正直、貴族どものほとんどは、従兄殿の味方なのだ」


 こればかりは、年数と立場で培われたものなので、太刀打ちできないのだ、とほぞを噛む。

 それならば潔く諦めて、従兄殿に継いでもらえば良いではないか、莉々子はそんなことをぼんやりと思う。

 すると、その思考さえも読んだのか、ユーゴはぎっ、と莉々子のことを睨んだ。


「俺は領主に成らねばならんのだ。あのような愚劣な者にこの地を任すわけにはいかぬ!」


 そんなことを言われても、莉々子にはわからない。


「血をついでいる以上は、奴にも継ぐ権利がある。それは承知している。しかし、あのような輩に……」


 そこまで言って、莉々子がぽかん、と惚けていることに気づいたのか、ユーゴは一つ、咳払いをした。


「貴様には、関係のない話だったな。まぁ、つまり、俺には取り急ぎ、有能な部下が必要なのだ」


 目線が上げられる。

 金色の瞳が、莉々子を射貫いた。


「決して裏切らない、味方が」


 なるほど、そのための虚偽、そのための恩売りだったのか。

 寄る辺がユーゴにしかないのであれば、確かに、なかなかに裏切りにくいだろう。


「そこで先刻の話に戻る。落ち人には、複数の魔法を使える者が多いと言われているのだ」

「まほう」


 権力争いの話に、突然のRPGが出てきた。

 いや、精霊うんぬんの話もあるのだから、突然でもないか。


「複数の魔法を使える者は少ないのですか」

「少ない。かく言う俺も、使えるのは闇魔法だけだ」

「やみまほう」


 なんとも、不穏な響きだ。

 しかしまぁ、誘拐犯にはお似合いの名称だろうか。


「一般に、使える属性が多いほど、多種多様の魔法が使えると言われている。まぁ、要するにおあつらえ向きだということだ」

「同じ事を企む輩がいそうですね」


 思わず嫌みな口調になった。とっさに口をつぐむが、もう遅い。

 出した言葉は戻らない。

 しかし、ユーゴはあまり気にしなかったらしい。「それはない」とあっさりとした言葉を返すだけだった。


「落ち人を呼び寄せる方法自体はあまり有名ではないし、道具や条件を揃えるのにとても労力を要する。闇魔法の使い手の中でも一部の者にしかできんしな。そして、そもそも闇魔法の使い手は希だ」


 なるほど。そんな稀少なアンラッキーによって、私はここに呼ばれたわけですね。

 うんざりと莉々子は、自らの不運を呪った。

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