最終章「さらば、勇者よ。」

132.ルージュにもたらされた報告

「よし、こんなもんでいいだろう」


 ラランダはきっちりと球体に仕上げた『退魔の宝玉』をリーファが持っていた魔法の杖マジックワンドに取り付け頷いて言った。古木で作られたリーファの杖。先がコの字になっておりそこにぴったりとはまる。マーガレットが言う。



「素晴らしい杖ですわ。わたくしが持っていたのと何ら変わりませんことよ」


 彼女が持っていた杖はウッドフォレストのキイに追いかけられて置いて来ており、肝心の宝玉も『願い龍』に捧げてしまっている。そんなことをおくびにも出さずに満面の笑顔だ。

 サーフェル討伐後、族長ダラスの屋敷に集まったゲイン達は今回の出来事について話し合っていた。ダラスが言う。



「何度も言うが本当に里の危機を救ってくれて感謝する」


「いいってことよ。俺達も世話になった」


 ゲインの言葉にダラスが答える。


「それで結局あのサーフェルと言う奴は魔王じゃなかったってことだな」


「ああ、そうなる」


 これについてはゲインも意外であった。魔王だとしても遜色のない強さのサーフェル。実際自分自身で『魔王』だと名乗っていたのだし、本人はそのつもりであったのだろう。ラランダが言う。



「でも魔王ってのは復活してるんだろ?」


「ああ、そのはずなんだが……」


 それはルージュやダーシャも言っていたこと。間違いないと思う。リーファが言う。



「でも水龍様は魔王の邪気に触れて暴れ出したんだろ? やっぱりサーフェルが魔王じゃないのか?」


「水龍は『魔王クラスの邪気』で暴れ出す。サーフェルはそれに十分相応しい強さだった。それだからじゃねえのか?」


 そう話すゲインにマルシェも頷く。シンフォニアが尋ねる。



「ふえ~、じゃあ、私達はこれからどうするんですか~?? これで解散なんですか~!? ふにゃ~」


 そう話すシンフォニアの顔は少し寂しそう。マルシェが答える。


「解散はできないと思います。まだ本物の魔王を倒していないですから」


『退魔の宝玉』を使っての魔王討伐はしていない。つまりそれはまだどこかに倒すべき魔王がいるということ。ただ魔王だと思っていたサーフェルが違ったことで、ここに来て手掛かりがなくなってしまった。ゲインが言う。



「とりあえず一旦レーガルトに戻ることしようか。ルージュやダーシャと相談した方がいい」


「そうですね。まだ各地で魔物達が暴れていると思いますし」


 サーフェルが倒れたとは言え、彼が扇動した魔物達はまだ各地で暴れている。一旦それらを討伐して新たな魔王に備えるのも悪くない。ダラスが尋ねる。



「いつ発つのだ?」


「そうだな。明日にでも」


「早いな。まあ仕方ないだろう。今日はここでゆっくり休んで行ってくれ」


「すまないな、里がこんなんになっちまって」


 サーフェル達に破壊された里を思いゲインが申し訳なさそうに言う。ラランダが答える。


「なに言ってんだ。皆が無事だっただけでも十分だ。あたいらがいれば里は復活できる。だよな?」


「ああ。そうだな」


 そう笑うゲインにダラスが言う。


「今日は飲んでいけよ。明日出発できぬほどに飲ませてやるぞ!!」


「あははっ、こりゃ参った。バナナジュースはないのか?」


「あるか、そんなもん」


 そう答えたダラスの言葉に皆が笑いに包まれる。




「なあ、ゲイン」


 皆が片付けや支度を始めると、リーファが近付いてゲインに言った。


「ん、なんだ?」


「私は、勇者なのか?」


 そう話す彼女の顔は真剣。ゲインがそんな彼女の頭に手を乗せて言う。


「当たり前だ。どんな強い奴でも諦めずに立ち向かう。自分を馬鹿みたいに勇者だって信じる。そう言う奴を勇者って言うんだぜ」


「そうか。ならやっぱり私勇者だな。ありがとう」


「ああ」


 ゲインがそれに親指を立てて答える。

 その夜、ぼろぼろに破壊されたドワーフの里で新たな勇者パーティの活躍に感謝し、夜遅くまで宴会が行われた。






「ルージュ様、ご報告が」


 レーガルト王城、その最上階で書類とにらめっこをしていた国防大臣ルージュに文官がやって来て言った。これまでの慌ただしい雰囲気とは違う。ルージュが尋ねる。


「どうしたの?」


 文官が悲しそうな表情で答える。



「ルゼクト団長が、亡くなられました」


「え? なんですって!!」


 レーガルト王国魔法団長。黒い眼鏡をかけた初老の男。いつも不敵な笑みを浮かべていたがその強さは本物。その彼がなぜ? ルージュが尋ねる。



「どうしたって言うの? ルゼクト団長は先の遠征でも無事帰ってきたはずでしょ?」


 各地で起こっている魔物騒動。その対処に追われているレーガルトは無論、魔法団長のルゼクトもその鎮圧に赴かせている。文官が答える。


「はい、それが……」


 なにやら言い辛そうな表情。ルージュが尋ねる。


「言いなさい。何があったと言うの?」


 騎士団長と並ぶ重要な役職。その彼が亡くなったと言うのならば放置はできない。文官が言う。



「はい、実はルゼクト団長は魔法研究所で亡くなられておりました……」


「魔法研究所?」


 そこはレーガルト王城の地下にあるほぼルゼクトが専用で使用している魔法研究施設。ルージュとてほとんど入ったことがない場所。



「魔法の暴発か何かに巻き込まれたとか?」


 新たな魔法の研究も行っている施設。研究に事故はつきもの。何かの失敗に巻き込まれたのだろうか。文官が難しい顔をして答える。



「それが、研究室に生きる屍アンデッドが居たそうで、それに襲われたようです」


生きる屍アンデッド??」


 そんなものがどうして研究所に居るのだろうか。最近生きる屍アンデッド関連の事件が増えているが何か関係があるのか。考え込むルージュに文官が言う。



「ルゼクト団長はその生きる屍アンデッドと戦いその中で亡くなったようです。生きる屍アンデッドも灰となっていました。相打ちだったとみられます」


「相打ち……」


 まったく意味が分からない。ルージュが尋ねる。



「何か研究室に怪しいものは?」


「それが特には。ただ床に白い砂のようなものが少々あったようです」


「白い砂?」


 まったく分からない。ルージュが言う。



「とりあえず治安部で調べさせてちょうだい。何か分かったら報告するように」


「はっ!!」


 文官は敬礼して部屋を出る。ルージュがため息をつきながら頭を抱える。



「こんな時にどうしてよぉ……」


 元騎士団長だったヴァーゼルに続き、魔法団長ルゼクトまでいなくなる。ルージュの頭痛の種がまた増えてしまった。

 そんな彼女の目にテーブルの端に置いてあった報告書が目に入る。



「そう言えばファーレンはどうなったのかしら?」


 正騎士団の副団長ファーレン。復帰して貰った騎士団長ボーガンの息子で緑髪に眼鏡をかけた真面目な青年。有能な剣の使い手であるが、魔族討伐に向かい大苦戦しているとのことで父親であるボーガンを援軍として送っていた。


「報告がないわね……、まあボーガンさんが行ったから大丈夫だと思うけど……」


 引退してもなお衰えぬ騎士団長ボーガン。

 しかしそんな絶対の信頼を置く百戦錬磨の騎士ですら、その想定外の魔族の前に成す術なく倒れていた。





「父上!! 父上ーーーーーっ!!!!」


 レーガルト王国領にある草原が広がる大地。

 ここで壊滅的損壊を受けた副団長ファーレン隊を救助にやって来た騎士団長ボーガンは、全身から血を流し息子の腕の中で虫の息となっていた。

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