130.サーフェルの逆襲
(ダメ。あれはまずいですわ……)
リーファ達の前に立ちはだかったサーフェルを見てマーガレットが思った。従事していた二体の魔族とは根本が違う。魔王を名乗っているが、本当に魔王だとしたら今正面から戦って勝てるはずがない。マーガレットが里の中へと走り出す。
(ラランダさん!! 急いで宝玉を!!!!)
マーガレットは、手遅れになる前に魔王を弱体化させるという『退魔の宝玉』を使わなければと全力で走った。
「リーファさん、あれはちょっとまずいかもしれません……」
サーフェルと対峙したマルシェも同じく不安を感じていた。立っているだけでビシビシと伝わるサーフェルの邪気。威圧感。少し気を抜くと倒れそうになるぐらい強烈だ。リーファが静かに答える。
「ああ。まずいな。さすが魔王。正面から戦ってどれだけ攻撃が通じるか分からない」
魔法勇者として覚醒したリーファですら矛を交える前から珍しく弱音の言葉。マルシェが言う。
「やはり『退魔の宝玉』で弱体化させないと勝てないのでしょうね」
「そうだな。今ラランダさんが大至急作ってくれている。それまで耐える戦いをする方が賢明だな」
「はい。あと、ゲインさんはまだ……」
勇者パーティの前衛ゲイン。深紅のワイバーンに連れ去られてから一体どうなったかは分からない。
「……」
無言になるリーファ。例えワイバーンを倒したとしてもあそこから走って降りて来るには少なくとも一日は掛かる。浮遊魔法が使えないゲインでは飛び降りることも不可能。リーファが言う。
「私達だけで撃退するぞ」
「はい!」
悔しいが討伐は難しいと踏んだリーファ。最悪サーフェルを撤退させられれば勝ちに等しい。サーフェルが首をポキポキ鳴らしながら言う。
「なあよお、勇者ゲインはいねえのか?? 俺はよお、勇者をぶっ殺してえんだ」
その言葉にカチンときたリーファが答える。
「私が勇者だ。魔法勇者リーファだ!!」
サーフェルが笑いながら言う。
「ぎゃはははっ!! なにが魔法勇者だ。お前は魔法使い、分からねえのか!?」
「な、なにを!!」
挑発にカッとなり魔力が乱れるリーファ。魔法を使う者は常に冷静で感情のコントロールが必要。心の乱れは魔法の乱れに繋がる。
「ピピーーーっ!!」
それを察したのか大型の鷹ほどになったコトリが鳴き声を上げる。それにリーファが反応する。
「そうだな。悪かった、コトリ。私が取り乱したらお前にも迷惑が掛かるな」
リーファの魔力の化身でもあるコトリ。彼女の魔力の乱れはそのままコトリへ影響する。マルシェが言う。
「ボクが守ります。リーファさんはできるだけ長く戦うようお願いします」
「うむ、分かった」
強力な魔法を撃てば魔力が切れる。倒しきれなかった時のことを考えると、今ゲインがいない状況で唯一の『矛』であるリーファを失う訳には行かない。サーフェルが言う。
「お前らを殺れば出て来るのか? 勇者は」
「黙れ……」
リーファが
「ああ、黙らせてやるよ!! てめえのその口をなっ!!!!」
そう言いながら拳を振り上げてリーファ達へと迫る。
ガン!!!!!
リーファの前に立ったマルシェが盾を構えてサーフェルの右拳を受ける。響く重低音。辺りを揺らす衝撃。距離を取る為にリーファが後退しようとすると、その異変が起きた。
ドオオオオオオオオオン!!!!
サーフェルの拳、マルシェの盾。そのふたつが接触した瞬間に、突如大爆発が起こった。
「ぎゃっ!!!」
全く想像していなかった攻撃にリーファ、そしてマルシェも後方へと吹き飛ばされる。もくもくと燃え上がる黒煙。里のドワーフ達は一体何が起きたのか全く理解できない。
「うぐぐぐっ、マルシェ、大丈夫か……、来るぞ!!!」
起き上がろうとしたリーファの目に、間入れず追撃する為に迫りくるサーフェルの姿が映る。マルシェがよろよろと立ち上がり盾を構える。
「うおおおおおおお!!!!」
マルシェには珍しい気合の叫び声。全力で耐えないとやられる緊張感。そんな彼女の盾にサーフェルが笑いながら突撃する。
「ぎゃははははっ!!! 弱えー、弱えー、クッソ弱えーーーーぞっ!!!!」
ドン、ドドドドオオオオオン!!!!!
「ぎゃっ!!!」
連撃。サーフェルは振り上げた両手で止まることなくマルシェの盾を何度も殴りつける。
ドドドドド、ドオオオオオオオン!!!!!!
サーフェルとマルシェを中心に起こる連続爆発。その周囲は熱気と黒煙に包まれもはや何が起こっているのか分からない。シンフォニアが叫ぶ。
「マルシェちゃーーーーーん!!!」
いくら優秀なタンクとは言え魔王の連続爆撃攻撃を受け続ければ無事かどうか分からない。ドワーフ達はあまりに恐ろしい光景にただただじっと見つめる。
「くそ、撃退など無理だ。その前に殺られる……」
マルシェより少し下がった場所でその様子をじっと見ていたリーファが小さくつぶやいた。放出される魔力。逆立つ金色の長髪。近くを舞うコトリの足を掴んで言う。
「私に魔力を寄こせ」
「ピピっ!!」
それに応じてコトリが大人しくなる。
「潰す」
リーファはそう小さく言うと
「……
リーファの周りに現れる蒼色の魔法の槍。同時に脳内で詠唱を行う。
(……
同じくリーファの周りに発現する白銀の魔法槍。その二本の魔法の槍がまるで
「退けっ、マルシェ!!!!」
「!!」
ひとりサーフェルの爆発に耐えていたマルシェがその声に反応し、素早く横へと移動する。リーファが叫ぶ。
「くたばれ!!
深淵の青と輝く白。二色が絡み合う様に糾えた魔法の槍は黒煙の中に居たサーフェルへ直撃する。
ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
これまでで一番大きな衝撃音。周りの空間をも揺らすような激しい振動。黒煙が消え、それに代わって白と青の煙が舞い上がる。
「はあ、はあ、これなら多少は……」
リーファが地上に降り立ち肩でゼイゼイと息をする。里のドワーフ達から上がる大きな歓声。想像すらできな程の強力な魔法を撃ち込むその小さな金髪の少女に、皆が騒ぎながら拍手を送る。
だがリーファにマルシェ、シンフォニア。そして里の強者達は分かっていた。
「あー、痛えな。これ」
「!!」
爆炎が収まった後に現れた、二本の角を生やした緑の長髪の魔族。まるで無傷。上級魔族達を一撃で葬った魔法勇者の攻撃でも全く通用しなかった。全身に傷を負ったマルシェがリーファの元へ下がって言う。
「リ、リーファさん。やはり宝玉を使うまでは無理です……」
「マ、マルシェ、大丈夫か!?」
さすがのリーファも傷ついたマルシェの姿を見て動揺する。シンフォニアが慌てて駆けつけて来る。
「マルシェちゃん、回復ですぅ!!!」
シンフォニアの回復魔法で傷が癒えるマルシェ。しかし事態は最悪。リーファと言う『矛』をもってしてもまるで歯が立たない。
そこへ黒髪をひとつにまとめたドワーフ族の大きな女が駆けて来て言う。
「間に合ったぞ!!! さあ、使え!!!」
やって来たのは宝造師ラランダ。手には磨かれ輝きを放つ白い宝玉。ラランダが言う。
「まだ完全体じゃないけどこれで十分。さ、詠唱を!!」
一緒に来たマーガレットがそれを聞いて言う。
「リーファちゃん、これを持ってわたくしの後に続いて詠唱をお願い!!」
それを見たサーフェルが血相を変えて叫ぶ。
「おいおい!! それは宝玉じゃねえか!!! くそっ、そんなもんを持って来やがって!!!」
爆発的に上がるサーフェルの邪気。マルシェが前に出て言う。
「ボクが押さえます!!! リーファさんは早く魔法を!!!」
「分かった!! 死ぬでないぞ!!!」
マルシェは背を向けたまま頷き、盾を持ってサーフェルへと突撃する。
「うおおおおおおお!!!!」
今日何度目か分からないマルシェの突撃。回復したとは言え長い時間は持たないのは明白。マーガレットが言う。
「わたくしの後に続いて!!」
「はい!!」
リーファは手渡されたまだ完全な球体ではない宝玉を天に掲げ、マーガレットの後に続いて詠唱を行う。
「……
「……
「かの邪をここに払い給え」
「かの邪をここに払い給え……」
マーガレットがリーファの顔を見て頷く。
「
リーファが手にした宝玉が白く輝く。
「
ドン、ドオオオオオオン!!!!
ひとりサーフェルの足止めをしていたマルシェ。これまでよりも更に激しい攻撃に体が悲鳴を上げ倒れそうになる。
(え?)
そんなマルシェとサーフェルの周りに白い渦巻のようなものが発生。驚くマルシェ。それ以上にサーフェルが動揺した。
「くそっ!! これはまさか退魔の……」
マルシェがそこから横に飛び離れる。宝玉を持ったリーファが限界まで魔力を注ぎ込む。
「うおおおおおおお!!!!」
サーフェルの周囲に発生した白い竜巻はそのまま天へと伸び、その悲鳴だけが反響し空の彼方へ消えていった。マーガレットが叫ぶ。
「今ですわ!! リーファさん、魔法を!!!」
「はいっ!!!」
すかさずリーファが地面に立ち唖然としているサーフェルへ向かって詠唱を始める。強力な魔法の連打。正直魔力切れが近くなっている。それでもリーファは歯を食いしばってその最後の魔法を詠唱。
「……
今の時点で放てる最高の魔法。
ドン!!!!
「……ふう。少し焦ったぞ」
サーフェルが笑み浮かべてリーファの魔法を片手で潰す。マーガレットが声を震わせて言う。
「ど、どうしてなんです!? 確かに宝玉で弱まったはずじゃ……」
サーフェルが笑いながら言う。
「何だよ、それ!? 何も変わらねえじゃねえかよ!! ぎゃははははっ!!! 心配して損したぜーーっ!!!!」
笑い転げるサーフェル。対照的にリーファ達は呆然として動けない。そんな中、立ちすくんだラランダがつぶやく。
「おい、あいつ、もしかして魔王じゃないんじゃねえのか……」
「!!」
ひとり大声で笑うサーフェルを見ながら、皆がラランダの言葉に無言となった。
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