128.金髪の魔法勇者

 それは突然起こった。



 ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!


「きゃああああ!!!」


 ドワーフの里『ドラワンダ』。この要塞のような堅固な里が、突如起こった爆音と共に大きく揺れた。昼食をとっていた族長ダラスが里の揺れを感じ大声で命じる。


「何が起こった!? すぐに確認しろ!!!」


「はっ!!」


 部屋に居た族長の従者が駆け足で出て行く。嫌な予感。その予感は的中する。



 ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!


 二度目、そして三度目の爆音と地響きが里を襲った後、部屋を出て行った従者が真っ青な顔をして戻って来た。



「ぞ、族長、大変です!! 壁が、里の壁が破壊されました!!!!」


「!!」


 ドラワンダを守る堅固な壁。三重構造なっておりこれまでの魔王軍の侵攻もその厚き壁がことごとく防いできた。


「すぐに行く!!」


 ダラスが急ぎ家の外に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。



「こんな馬鹿な……」


 里を守っていた三重の壁は木っ端みじんに破壊され、その周辺に多くの警備兵が倒れている。その中央に立つ三名の邪悪な存在。二名の魔族とそれを遥かに凌駕する恐るべき何か。

 ダラスの元にラランダを始めとした里最強の三戦士が駆け付ける。



「族長、避難を!! あれはまともな奴じゃありません!!」


 剣を持った男のドワーフの戦士が言う。同じく斧を持ったドワーフが叫ぶ。


「ラランダと族長は早く逃げな。ここは俺達が時間を稼ぐ!!」


「そんなことさせないよ!! あたいも一緒に行くぞ!!」


 それを拒否するラランダ。三戦士のひとりとして里を、族長を守りたい。だがダラスが言う。



「一緒に来るのだ、ラランダ。お前は里唯一の宝造師ほうぞうし。お前が死んだら宝玉が作れなくなる」


「わ、分かってるよ!! だけどあたいだって……」




「てめえが族長か? あと、お前だな? 『退魔の宝玉』を作るって奴はよお」


「!!」


 ダラスは目の前の光景を疑った。

 先程まで里の入り口に居たと思っていた魔族達が一瞬で目の前まで来ている。三戦士すら全く気付かぬ速さ。皆の体に汗が噴き出す。男のドワーフが言う。


「お前らは誰だ!! ここをどこだと思ってる!!」


 頭に二本の角を生やし、すらっとした体躯。端正なマスクに緑の長髪。明らかに次元が違うその敵を前にドワーフ達が体の震えを無理やり押さえ込む。


「俺か? 俺は魔王サーフェル。ここを潰しに来た。くくくっ……」


 想像はしていた。いつか恐るべき力を持った魔王が来ることを。剣を持ったドワーフが前に出て言う。



「魔王か。ふっ、ちょうどいい。貴様らの襲撃に備えて俺達も鍛錬して来たんだ。相手になってやる!!!」


 サーフェルはそれを聞いて大声で笑い出す。


「がはははっ!! お前みたいな雑魚が俺の相手をするだと!? 聞いたか、アイスキル。こいつらマジで馬鹿だぜ」


「な、なにを!!!」


 怒りに顔を紅潮させるドワーフ。アイスキルが言う。



「あのような雑魚にサーフェル様のお手を煩わせる必要はございません。ここはわたくしが」


「あー、いいぞ。やってみろ」


「御意」


 アイスキルはそう言うとドワーフの前に出て軽く指を立てて言う。



「かかって来なさい。雑魚よ」


「何だと!!!」


 怒りに狂ったドワーフが剣を振り上げて突撃する。



 ガンガンガン!!!!


 ドワーフの攻撃がアイスキルに直撃。想像しなかった展開に喜ぶ斧のドワーフだが、そのすぐ後に顔が真っ青に染まる。



 ドフッ……


「ぎゃ!!!」


 微動たりしないアイスキル。その真正面に立ったドワーフの胸に円錐状の氷が突き刺さっている。音を立ててゆっくり倒れるドワーフ。ラランダが顔を青くして言う。



「な、なんだ。あの強さは……」


 屈強なドワーフ族の中でも三戦士と呼ばれる最強の男。その彼がほぼ何もさせて貰えないまま地面に倒れた。斧を持ったドワーフが手に汗を握りながら言う。



「ふたりは逃げてくれ。多分時間を稼ぐことしかできねえ」


 目の前の戦いを見て理解した。自分では勝てないことを。ラランダが言う。


「何を言う!! あたいらドワーフ族が敵に背を向けて逃げることなんざできるはずねえだろ!!」


「ラランダ!! 俺と一緒に来い!!」


 そんな彼女を族長ダラスが一喝する。想定外の強さの敵。里を捨ててでも彼女だけは逃がさなければならない。そんなやり取りを見ていたローレンが笑いながら言う。



「大丈夫だよーん、どうせみんな死んじゃうんだから。ほら」


 そう言って地面に転がっていた小さな石に触れる。



 ドドドド、ドッ……


「な、なんだと……!?」


 ローレンが触れた石が見る見るうちに大きくなり、その姿を凶悪なへと変化させた。緑色のグリーンドラゴン。上級魔物である。斧を持ったドワーフが言う。



「ヤバいな、あれは……」


 無から魔物を創造するだけでもチート級のスキル。それが更にドラゴンを造り出すとなると苦戦は必須だ。ラランダが剣を持って叫ぶ。



「倒すぞぉおおお!!!!!」


「ま、待て、ラランダ!!!」


 族長の声にも耳を貸さず、ラランダが単騎ドラゴンへと突撃する。



 ガン、ガガガン!!!!


 ドラゴンの爪を回避し持っていた剣を豪快に打ち込む。斧のドワーフも同じく叫びながら突撃する。



「うおおおおおおお!!!!」


 ドン!!!!


 ドラゴンの体へ見事ヒット。だがこれに激怒したドラゴンが瞬時に体を捻らせ、その長い尻尾を振り回す。



「ぎゃああああ!!!!」


 直撃。尻尾の攻撃を受けたラランダが悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。


「ラランダ!!! ぐがっ!!!!」


 ラランダに気を取られたドワーフが、牙を生やし、口を大きく開けたドラゴンに喰らいつかれる。



(このままじゃやられる……)


 里最強の三戦士をもってしても使い魔のドラゴンですら勝てない。族長ダラスが目の前の光景を見て両膝をついて項垂れる。里の襲撃を知り集まって来たドワーフ達も、圧倒的な強さを誇る魔族の前に皆金縛りにあったように動けない。里の崩壊。蹂躙される里の図が頭に浮かぶ。

 そんな最悪な事態が頭をよぎったダラスの耳に、その場に相応しくない女の叫び声が響く。



「きゃーーー!! きゃーーーー!!! 死ぬぅ~!! 死んじゃいますぅ~!!!!」

「ふきゃーーーーっ!! 助けてくださーーーーーい!!!!」



(え?)


 驚いたダラスが顔を上げると、上空からピンク髪の女の子と青髪の鎧、それに金髪の少女が落下してくるのが見えた。金髪の少女が魔法の杖マジックワンドを手に魔法を詠唱する。


「……あるじ、女神フーテンの名の下に風を起こさん。疾風ウィンドウ


 巻き起こる魔法のつむじ風。それと同時に金髪の少女と鎧の落下速度が緩まる。金髪の少女が叫ぶ。


「コトリ!!!!」


「ピピーーーーっ!!!」


 その声に呼応して上空から勢いよく大きな鷹ほどの鳥が急降下し、ピンク髪の女の体を鷲掴みにする。



「ふきゃ~……」


 ぐったりするピンク髪の女。大型の鷲はバサバサと翼を羽ばたかせゆっくりと地面に着地。金髪の少女は下からの風を受け舞い上がる髪を押さえながら言う。



「滅せよ。……あるじ、女神ウェスタの名の下にかの敵を穿うがけ。火炎の槍ファイヤ・ランス


 少女の周りに集まる蒼い業火。それが太い槍となって一直線にドラゴンへと放たれる。



 ドオオン!!!!


「グガアアアアアアアア!!!!」


 蒼き槍は固い皮膚を誇るドラゴンの体を貫通し空の果てへと消えて行く。唖然とする一同。青い炎で燃え上がるドラゴンが灰となって崩れ落ちる。呆然としたままダラスが言う。



「あんたらはゲインの仲間の……」


 地上に降り立ったリーファ、シンフォニア、そしてマルシェが風で乱れた髪を直しながら答える。


「ただいま戻りました!!」


「おお……」


 喜ぶドワーフ達。リーファはすぐにラランダの元へ行き宝玉の原石を手渡し言う。



「採って来たぞ!! これを頼む!!」


 ラランダが久しぶりに見る宝玉の原石を見て目を輝かせて言う。



「おお、素晴らしい!! これなら作れるぞ!! ちょっと待ってろ!!!」


 そう言って頷く族長の顔を見てからひとり工房へと走る。



「びっくりしましたですぅ~、死んじゃうかと思いましたぁ、ふぎゃ~」


 まさかの『岩山ダイブ』をすることになったシンフォニアが疲れ切った表情で言う。マルシェも頷いて言う。


「ほんと吃驚しました!! ボクだけすごく落ちるの速くて……」


「お前は鎧脱げ。まったく……」


 必死にマルシェを追いかけて、浮遊魔法を何度もかけ続けたリーファが疲れた顔で言う。




「な、なによ、あれ……」


 自慢のドラゴンが一撃で討ち取られたことに怒りを表すローレン。再び地面にある石に手をやりスキルを発動する。


「死ね死ね、これで死になさいよ!!!!!」


 触れられた石が一気に黒いワイバーンへと変化。それを見たリーファが前に出て言う。



「その程度か。ちょうどいい、覚醒した魔法勇者リーファ様の力を見せてやる」


 そう言って魔法の杖マジックワンドを前に出し魔法を詠唱。



「……あるじ、女神フーテンの名の下に風を穿うがけ。風廻の衝撃スクリューウィンドウ!!!」


 リーファから発せられたふたつの竜巻。それが長細く伸び、飛行して来たワイバーン、そしてローレンを巻き込む。



「ギャアアアアア!!!!!」


 叫ぶワイバーンとローレン。リーファも同じく大声で叫ぶ。


「砕けろおおおお、うおおおおおおお!!!!」


 リーファから発せられる尋常ではない魔力。それは周りにいる者達の体をビシビシと痺れさせるほどの威力。



「ふっ、雑魚が」


 その様子を腕を組んでみていたサーフェルがつまらなそうな顔で言う。



「あがっ、が……」


 現れたローレン。それはリーファの風の竜巻で体の半分以上を削られた哀れな姿。ローレンがふらつき力無く倒れる。



「ローレン様!!!!」


 アイスキルが大声で叫ぶもローレンは無言のまま灰となって崩れ落ちた。シンフォニアが言う。



「すごいですぅ!! リーファちゃん、本当にすごいですぅ~!!!」


 リーファが答える。


「この程度当たり前。シンフォニア、お前は里の人の治療を頼む」


「了解ですぅ~!!」


 シンフォニアは倒れているドワーフの戦士に近付き回復を始める。




(……アイスン、ねえ、アイス~ン!!)


 アイスキルの頭に灰となって消えて行ったローレンの顔が思い出される。同時に水色の顔が赤く燃え上がる。



「許さないぞ、貴様らっ!!!!!!」


 上級魔族アイスキルが怒りの形相でリーファを睨みつけた。

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