127.え、落ちる??
「サーフェル様。あれがドワーフの里『ドラワンダ』でございます」
『
「ちょうどいい。あそこは俺達魔族にとって忌むべき場所だ。徹底的にぶっ壊してやる!!」
巨躯で水色の肌をした側近のアイスキルが答える。
「はっ。偶然にも勇者ゲイン達もあそこに寄っているようです。ここは我等で一網打尽にすべきかと」
「それいいね~、やっちゃおうよ~」
そう話すもうひとりの側近、薄紅色のふわっとしたツインテールの魔族の幼い少女ローレン。だが見た目に反し、彼女も以前とは全く別人かと思うほどの恐ろしい邪気を放っている。サーフェルが言う。
「当たり前だ。俺様の
「サーフェル様。作戦は如何なさいますか?」
そう尋ねたアイスキルにサーフェルが身もよだつような殺気を放ち言う。
「死にてえのか、お前? 作戦など要らねえ。叩き潰すのみだろっ!!!」
「も、申し訳ございません……」
アイスキルが少し下がり深々と頭を下げる。以前の知慮深いサーフェルはもういない。古の魔王をその体に降臨させ、より強固により凶暴な性格へと変貌した。無論その強さはこれまでの比ではない。ローレンが言う。
「でもあそこってさ、昔から魔王軍の侵攻に備えて結構防御固めているよね~、どうする? そのまま行く??」
同じくサーフェルがぎろりとローレンを睨んで言う。
「くどいぞ。それともこの俺じゃ落とせねえって言うのか!?」
「い、いや、違うよ……」
かつては同格であったサーフェルとローレン。しかし時が経ち、今や完全にその立場には格段の差ができている。サーフェルが拳を前に出して言う。
「さあ、じゃあ潰すぞ。粉々に」
「はっ」
「はーい!」
サーフェルの言葉にアイスキルとローレンが頷いて答えた。
「マルシェ、盾を構えろ!! ふたりは魔法攻撃を!!!」
「はいっ!!」
岩山の上、突如現れたワイバーンの群れに備えてゲインが指示を出す。リーファが不気味な笑みを浮かべて言う。
「ふふっ、格好の的じゃないか。全部撃ち落としてやる!!」
「わ、私も頑張りますぅ~!!」
ふたりの後衛がマルシェの後ろから魔法の詠唱を始める。
「……
「……主、女神マリアの名の下にその邪を滅せよ。
リーファは得意の火炎魔法。シンフォニアもフォルティンの里で習得した光攻撃魔法で迎撃する。
ドン、ドオオオオオン!!!!
青い空を掛ける白き光と蒼色の槍。ゲイン達を襲って来たワイバーンを次から次へと撃ち落としていく。
「うおおおおおおお!!!!」
ザン!!!!
ゲインが自身に突撃してきたワイバーンを攻撃。近くで見ると意外と大きな体。黒い皮膚は固く、足場が悪いここでは思ったように剣が振れない。
ドドオオン!!!
ワイバーンの一体が隙をついてマルシェが持つ盾へと突撃する。
「きゃあ!!」
約1メートル程しかない狭い足場。木で組まれた天空の通路は雨風に晒され一部が脆くなっている。マルシェが思う。
(ここで強く踏ん張って攻撃を受けると危ない……)
そんなマルシェの不安を感じ取ったのか、リーファが
「これで決めてやるわ!!! ……
リーファの前方に巻き起こる深淵の青き業火。うねりを伴って巻き上がる魔法の業火に、集まっていたワイバーン達が次々と巻き込まれて行く。
「ギャガアアアアア!!!!」
業火に焼かれたワイバーンが次々と絶叫し、そして灰となって消えて行く。ゲインがその様子を見ながら感嘆の声を上げる。
「すっげえなあ!! 魔子を手に入れてからマジで火力上がったな!!」
「ああ、まあな……」
魔力を吸収する魔子。ようやくその辛い状況にも慣れて来たリーファの魔力は驚くほど上昇していた。ゲインが言う。
「シンフォニアもありがとな。助かったぜ!」
「は、はひ~!!」
以前は回復魔法しかできなかった彼女。聖攻撃魔法を習得したお陰で更に心強い戦力となった。ゲインが言う。
「さあ、頂きはだいぶ近い。頑張って登るぞ!!」
「はい~!!」
皆は疲れた体でその言葉に応えた。
「ここまでか……」
そこから数時間、頭上の空はいつしか深い紺色に変わり、確実に空気も薄くなってきている。日差しが強いのでさほど寒さは感じないが夜は間違いなく冷えるであろう。
そんな彼らの前に舗装路に代わって剥き出しの岩壁の足場が現れる。シンフォニアが言う。
「ひえ~、通路がないですぅ~!? ここからどうやって進むんですか~?? ふぎゃー!!」
これまであった舗装路はここで終わっており、この先は辛うじて足を乗せられる岩壁が続いている。先に進むにはこの壁に張り付くように登って行かなければならない。ゲインが壁に打たれた杭とチェーンを掴んで言う。
「これを掴んで登るぞ。落ちないよう気をつけろ」
「これで、登るんですか……」
さすがのマルシェもその心許ないチェーンと足場を見て顔を青くする。
「まあな。想像していたがかなり厳しいな……」
ゲインがまだ天へと伸びる岩山を見上げて言う。皆が高所に震える中、リーファがある物を拾って皆に言う。
「なあ、これってまさか宝玉の原石じゃないのか?」
その手にあるのは真っ白に輝くガラスの欠片のようなもの。ゲインがそれを見て言う。
「ああ、それだ! それは割れた破片だが、それより大きなものが時々壁に埋まっている。それを見つけるぞ」
「分かった。もう先は見えて来たんだな」
リーファはそう言うとひとり通路を歩き出す。
「行くぞ」
「はい!」
それに続いてゲインやマルシェ達が歩き出す。
「ゲインしゃん~、もうダメでしゅ~……」
そこから数時間、岩壁に張り付くように登り始めた一行は疲労の限界を迎えていた。足場が悪く落下に注意しながらの行軍。吹き付ける冷たい風に薄い空気。ここは人の生を否定するような過酷な環境。ゲインがあることに気付いて声を出す。
「あ、おい!! 山頂が見えたぞ!!」
「!!」
ゲインの指差す先に、ついに岩山の頂きがうっすらと見える。長く長く辛い行軍。ようやくその終わりが見えた。マルシェが尋ねる。
「この辺りに原石があるんですか?」
「ああ、注意して壁を見ていてくれ。白い原石があればその可能性が高い。こぶしサイズで十分だ」
「は、はい!!」
皆が一斉に壁を注視する。青と言うか、薄紫色の岩肌をまじまじと見つめる。シンフォニアが叫ぶ。
「ふぎゃーーーーっ!! ゲインしゃん!! これって原石じゃないですかぁ~!!!」
そう言って彼女が指差す足場に白く輝く石が見える。ゲインが近付いて見てから言う。
「間違いないな!! よくやった、シンフォニア!! これでいいぞ!!!」
「やったー!!!」
シンフォニアがマルシェとハイタッチをして喜ぶ。
「じゃあ、俺が掘り出すから下がっていてくれ」
ゲインは鞄を下ろし中からノミと金づちを取り出して慎重に岩を削り出す。マルシェが言う。
「やっと終わりましたね……、本当に疲れました」
「そうだねそうだね~、もう歩けないですぅ~、ふにゅ~……」
そう言いながらふたりがチェーンを掴んだまま腰を下ろす。ゲインはひとり金づちを叩いて原石を掘り出す。リーファが言う。
「おい、あんまり気を抜くなよ。こういう時って意外と強い魔物が襲って来たりするんだからな」
「やーだー、リーファちゃ~ん!! そんなこと言わないでくださいよ~、怖いですぅ~」
「ここで襲われたらちょっとまずいですよね」
「まあ、私がいれば大丈夫だがな。あはははっ」
ふたりは気付かない。この時リーファの目の色が薄い紺色に変化したのを。
ガン!!!!
「やったぞ!!! 採れた!!!」
そこへようやく宝玉の原石を掘り出したゲインが大きな声で叫ぶ。その手には角ばった白い石。太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。リーファが言う。
「ようやく帰れるな」
「ああ、急いで降りよう。すぐにラランダに加工して貰わなきゃならない」
そう言って原石をリーファに手渡すゲイン。そして言う。
「『退魔の宝玉』を使って魔王弱体化ができるのはお前だ、リーファ。強力な光魔法が必要となる。頼んだぞ」
「任せろ。私は魔法勇者。必ず魔王を討伐してやる」
そう言って鼻の穴を開けながら意気込むリーファを見てゲインが苦笑する。
(え?)
そんな皆の目に岩壁を通り過ぎた素早い黒い影が映る。ゲインが上空を仰ぎ、叫ぶ。
「ワイバーンだ!!! 気を付け……」
そこまで叫んだゲインの体が固まる。
(赤い個体!? おいおい、あれって……)
「グギャアアアアアアア!!!!!」
真っ赤なワイバーン。それは『深紅のワイバーン』と呼ばれ通常の黒のものより更に強力で狂暴。言わばワイバーンの上位種である。ゲインが叫ぶ。
「気をつけろ!!! あれはヤバい!!!!」
その素早い飛行を見てその危険さは既に皆理解していた。リーファが叫ぶ。
「灰にしてやる!! 「……
リーファから青の業火の槍が放たれる。
シュン……
だが深紅のワイバーンはそれをあざ笑うかのように軽くかわす。悔しがるリーファに目がけてワイバーンが突撃。マルシェがすぐに盾を持ち防御に入る。
ドン!!!
「きゃっ!!」
先のワイバーンよりも速く激しい突撃。足場が悪いマルシェがそれに耐えきれずにバランスを崩す。
「えっ……」
マルシェは気が付くと倒れ込むように体が宙に浮いていた。
「マルシェちゃん!!!!」
落ちそうになるマルシェに手を伸ばすシンフォニア。だが彼女に鎧を着たマルシェを支えることはできずそのままふたりとも岩壁から消えて行く。
「マルシェ、シンフォニア!!!!」
それを助けようとゲインが手を伸ばすが届かず。それどころか背後から突如何かにガシっと体を掴まれる。
「お、おい!! よせ、放せ!!!」
深紅のワイバーン。一瞬の隙をついて背後からゲインを掴み大空へと舞い上がる。リーファが叫ぶ。
「お、おい!! ゲイン!!!!」
「大丈夫だ!! お前はふたりを頼む!!!」
そう言いながら上空へと連れ去れるゲイン。リーファが壁から落ちたふたりを追うように跳躍する。
「くそっ、あのバカ共め!! コトリっ、行くぞ!!!!」
「ピピーーーっ!!!」
落下するふたりを追いかけるようにリーファも壁から飛び降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます