落ちろ、真紅の大太刀よっ!
すると奴は目を見開き、左目にあった百合の華を咲かせる。直後、彼の頭上に白百合の華が咲き、枯れる。そこから落ちてきたのは、純白の大鎌じゃった。
「
「やはり使えるのか、アヲイの力も」
落下してきた純白の大鎌を握り、こちらを狙ってくるピサロ。あれで斬られれば命脈を吸い取られ、向こうが強化される。意地でも一撃を貰う訳にはいかん。
「喰らい尽くせ、
「させんわ、
周囲に残っておる
「返り咲け。
「ぬうっ、小癪なっ!」
足元から奴を守るのは黄色い睡蓮の華。エイヴェの能力すらも自由自在か。わしの大太刀の一撃が、まるでツルツルの壁面で滑らされたかのように逸らされてしまう。
「まだですよお。功、癒、創。臭い咲け。
「ちぃっ!」
とどめと言わんばかりの、ピサロ自身の
「離れるなんて酷いじゃないですか。もっともっと、ボクと遊んでくださいよおッ!」
「穿て、
牽制の為に、宙に従えた真紅の大太刀を放ったが、ピサロの足元に咲いている黄色い睡蓮の華の
「無駄無駄無駄無駄あ。エイヴェ君の
「お断りじゃ、このたわけ者がっ!」
かと言って素直に近距離戦に持ち込んだとしても、逸らされる攻撃と状態悪化の死臭。更にはこちらの命脈を奪う純白の大鎌によって、不利が加速することは目に見えておる。突破口が見出せない今は、とにかく逃げ回って大太刀を放っていく他にない。
加えて一つ、懸念事項がある。わしの想像が正しければ、一撃でももらってしまうと状況が更に悪化することがのう。
「つれないですねえ。ならばあ、ボクから行きますよおッ!」
現状の打破を必死に頭を回していたその時、ピサロの身体が加速した。見ると、奴が顕現させた筈のラフレシアの華がない。
「ちいっ!
「気が付いても、遅いですねえ」
「ぐっ、あああっ!」
理解したその時、わしは奴が振るった大鎌の一撃を受けた。幸いにして切り傷は左の肩口だけで済んだが、斬ったその勢いのままに突っ込んできた奴の体当たりをモロに受けてしまう。吹き飛ばされたわしは崩れ残っていた館の壁面に背中から激突し、その場に倒れ伏した。
「ふふふふ、これでアヲイ君の
「ま、不味いわい」
元々が万全の状態でもなかったが為に、ダメージがぶり返してきたわし。よろよろと立ち上がった時には、
「――
直後に現れたのは、そこら一帯に咲き誇った巨大な白百合。全てが華開き、枯れた直後。首が落ちたかのように萎れ、地面に落下した華からは白いボロ布を纏った黒い骨が這い出てくる。
無数に萎え果てた白百合から生まれたのは、純白の大鎌を持った黒い骸による軍勢。その全てが黄色い睡蓮の華で守られており、状態悪化の死臭を放っているという地獄絵図。
「ヒャーハッハッハッ! 凄い凄い凄い凄いッ!
最高潮のテンションに達しているピサロ。遠距離攻撃を逸らし、近距離になればその死臭で相手にデバフをかけて、更には斬れば斬る程に回復していく
「さあさあさあさあ、どうしますかカナメ君。
ピサロの絶叫と共に襲い掛かってくる
放つ真紅の大太刀も、黄色い睡蓮の
「エイヴェの奴め、面倒くさい
わしの中に電流が走った。突破口があった。立ち止まったわしは、付き従えていた大太刀を自身の周囲に並べて壁を作り、骸共の侵攻を食い止めた。
「おっと。カナメ君、何かされるつもりですかあ?」
「当たり前じゃ。目ん玉かっぽじって、よーく見ておけ」
「あああッ、楽しみだなあ。ボクの想像以上であると期待してますよおッ! 簡単にはやらせませんけどねえ、
指示を出したピサロは下がり、代わりに無数の軍勢に取り囲まれる。鼻につく死臭によって身体中が重く、手足の先に痺れ出す。強烈なデバフの中、わしは無理やり目を見開いて跳び上がった。空中から眼下の
「
世界の命脈を可能な限り組み上げ、わしは空中に赤い薔薇を咲かせまくった。多重に咲かせた赤薔薇から幾重にも生成した真紅の大太刀を、更に天高くへと舞い上がらせる。一気に視界に映らない高さへと消えた時、わし自身は地上へと落下した。着地と同時に地面に大太刀を突き刺して声を上げる。
「落ちろ、真紅の大太刀よっ! 万物を裂き、薙ぎ焼く力ぁぁぁっ!」
直後に周囲の
「なーんだ、ただのゴリ押しですか。そんな程度じゃ破れませんよ? ほら」
粉塵が晴れた頃。そこにいたのは真紅の大太刀の一撃を一つも受けていない
「
「はあ、はあ、はあ、はあ……それはどうかのう?」
呼吸を整えた後、わしの口元には笑みがあった。
「よーく見てみい、お前自慢の軍勢を」
わしがあごでしゃくった先には、周囲に真紅の大太刀が刺さっている
「無事な彼らがどうかしたんですかあ? ちょっと身動きは封じられてますが、ご自慢の大太刀は、一本たりとも当たっていませんよお」
「たわけが。分からんなら、今から見せてやろう」
じゃがその大太刀は、奴らの身体を覆い隠すように突き刺さっておった。これじゃよ、わしの狙いは。立ち上がったわしは、息を大きく吸った。吸った後は、もちろん吐き出すまでじゃ。頭の中の痛む
「これで終いじゃ、爆ぜろ大太刀ぃぃぃっ!」
「なあッ!?」
直後、
「な、何故ですか?
「全てを逸らす力。言ってしまえば、逸らすだけじゃ」
戸惑いを表情に宿したピサロに対して、わしは悠々と言葉を紡ぐ。その間にも奴の軍勢は次々と燃え落ちていっておった。
「逸らす先がなければあとはその身に受けるのみ。真紅の大太刀で四方八方の全てを覆い尽くし、逃げ場を無くしてやったんじゃ。密閉空間での全方位攻撃には耐えられまい。終いなのはそっちじゃ、ピサロ」
わしの言葉とほぼ同じ頃、最後の骸が燃え落ちて消えていった。残されたのは少量の真紅の大太刀を付き従えたわしと、目を見開いておるピサロのみ。
「相手の力を奪うお前の
手に持った大太刀の切っ先を、真っすぐピサロへと向けた。正直もう一度同じことをやれと言われたら、かなりキツイ。
じゃが、ここで弱みは見せられん。優位を築いたのなら、強気に出る以外ありえん。息をつくのは、奴が屈服した後で十分じゃわい。
「……はははははははははははッ!」
ピサロは大笑いを始めた。なんじゃなんじゃ、気でも違ったか。
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