僭越ながら、ここでわしの華を咲かせてやろう
嫌にテンションの高いピサロを視界に捉えつつ、わしは身体を起こした。殴られた箇所もようやく痛みが引いてきて、もう無視できるレベルじゃった。
「空気が美味い、身体が軽いッ! 清々しいというのは、こういうことを言うんですねえ。では皆さん、手始めに大聖堂へ進軍しましょう。ボク達は革命軍です。道々の民家を潰し、略奪し、声を上げながら凱旋しましょう。こんな遊び、初めてです。絶対絶対楽しいですよお」
「そんなこと、させると思うかっ!」
わしの声を聞いて、ようやくピサロがこちらを見た。
「おやカナメ君。無事だったんですねえ、手加減はしなかった筈なんですが」
「ああ、こんなに良い蹴りは久しぶりじゃわい」
起き上がったわしは、真紅の大太刀を構える。世間様の為にも、取り込まれたアヲイを取り戻す為にも。ここでコイツらを止めねばならん。
「そんな状態で、お一人で。ボク達をどうにかできると思って思っているんですか? 頼みの
ピサロのその言葉で一斉に戦闘の構えを始めた、奴の子飼いの
「ああ、お陰で整ったぞ」
「はい?」
じゃが、わしに悲壮感はない。不本意にも、条件が整ったからじゃ。
「数的に劣勢であること。わし自身が負傷しておること。味方が倒れ、わし以外に誰もおらんこと……
「か、カナメ君、まさか」
「攻、癒、射、創。情と熱の赤き薔薇。咲き誇れ、業火の如く。秩序なきその
戸惑うピサロを無視して、わしは詠唱を開始した。周囲にわしの華が咲き誇っていく。地面に、空中に咲いた、無数の真っ赤な薔薇。咲くと共に燃え始め、周囲を赤く照らしていく。
「――
詠唱完了後、全ての赤い薔薇が砕け散った。真紅の
業火の軌跡を残していく大太刀の軍勢。見開いたわしの両目には、
「わしの弟子が随分と世話になったのう」
驚愕と動揺が広がる彼らに向かって、わしは言い放った。
「じゃが、もう結構じゃ。返してもらうぞ。わしの馬鹿弟子をっ!」
「む、迎え討てッ!」
一拍を置いて、状況を理解したのか、。ピサロの指示によって
「穿て、
「キシャァァァッ!?」
かかってくる奴らに向けて、宙に浮いた真紅の大太刀を順番に放っていくわし。切っ先から一直線に飛んでいったそれは、着弾と同時に爆発し、業火をまき散らす。
「キシャァァァッ!」
一部の
「防げ、
わしは地上に咲いていた複数の真紅の大太刀に指示を出し、空中に並べて壁を作り出した。その壁が、
「そうら、お返しじゃ」
壁の一部の大太刀を動かして、奴らの身体を切り裂いた。斬ると同時に炎を迸らせて傷口を焼くので、痛みは絶大じゃろう。じゃが、長く苦しませる趣味はない。怯んだ隙に真紅の大太刀を放ち、奴らの身体を木端微塵にしてやった。
「まとめて薙ぎ払ってやるわい、
わしは
「落ちろ大太刀、裂き焼く力ぁぁぁっ!」
「「「「キシャァァァッ!?」」」
奴らがまとまっている地点に向けて、上空から真っすぐに真紅の大太刀を撃ち下ろしていく。大太刀の雨とも言えるその状況。落下して身体を切り裂き、すぐさまに爆発。爆風と業火を浴びた奴らが次々と燃え落ちていきおったわい。だいぶ数が減ったのう。
「さて、と。まだ数は残ってはおるが。どうしたピサロ、わしの力は奪わんのか?」
そんな中。わしは真紅の大太刀を宙に従えたまま、ピサロの元へと歩み寄った。わしの挑発に対して、奴は一言も口にはせん。
「ここからはわしの推測じゃがのう。奪った華を咲かせる瞳は二つだけ。つまり、二つまでしか奪えんのではないか? 消化が終わったのなら、話は違うのかもしれんがな」
「…………」
「図星じゃな。なら、さっさと降参せえ。守ってくれる取り巻きはおらず、歩けるようになったとは言え、お前は素人じゃろう? 先ほどは不意を打たれたが、もうあんな手は通用せん……」
「は、ははは。ははははははははははははははッ!」
突然、ピサロの奴が笑い出した。わしはビクッと身体を震わせるも、油断なく奴を見やる。
「そうかそうか、因果ですねえ。あの時喰い損ねたカナメ君が、ボクの目の前に立ちはだかるなんて。やはり業は全て清算しないと、前へは進めないんですねえ」
「なんじゃと?」
わしは眉をひそめた。
「まあ、あなたはご存じないでしょうねえ。何せあなたの暴走中に、あのジーク君もろとも巻き込んだ訳ですからねえ」
「……貴様、いま何と言った。何故先輩の名が出てくる?」
今の言葉は聞き逃せん。何故ピサロの口からジークという名前が、わしがこの手で殺した筈の先輩の名前が出てくる。
「せっかくですし教えてあげましょう。ボクはあなたの暴走の最中で
「待て、待ってくれ。そんなこと、信じられる訳が」
唐突に放たれた話に、理解が追い付かない。二十年間ずっと後悔し、信じてきた事実がひっくり返されてしまったのじゃ。訳が分からなくなり、手に力が入らない。いつの間にか、奴に向けていた筈の剣先が下がっておった。
「これがこれが、その証拠です」
「なっ!?」
更にはピサロの奴は、ラフレシアの華から一つの物を取り出して見せた。それは盾。身体全てを守れるような、大盾。ジーク先輩が持っておった、
「使い勝手が悪かったので、さっさと消化したんですよねえ。今では形を再現することしかできませんが……あれあれえ、どうしたんですかカナメ君。もしや暴走した時に、自分が先輩を殺したとでも思っていましたか? ああ、ああ、なるほどなるほど。だから、あなたは軍を辞めたんですねえ。通りで通りで足取りが掴めなかった訳だ」
いつの間にか、大盾は消えておった。一人で納得しておるピサロを余所に、わしは全身が震えだすのを感じておった。入らなかった筈の力が、今では全身にみなぎってきておる。握りこんだ大太刀の剣先が、震えておった。
「色々と疑問が氷解して、スッキリしま」
「そう、か。そうじゃったのか」
静かに、わしはピサロの言葉を遮った。
「そうかそうかそうかそうか、わしはとんだ思い違いをしておったんじゃな。暴走し、意識がなかったが故に全てを自分の所為と思い。償いとして軍を辞め、
全ての真実が明らかになった今、わしの中に渦巻く気持ちは、ただ一つ。
「当時のことを洗い直すこともせんかったのは、わしの不徳じゃ。逃げておったんじゃ、わしは……じゃが今、全ては明らかになった。であれば」
大太刀を握り直す。瞳に力が宿る。宙に浮く真紅の大太刀は炎を迸らせ、わしの心持ちに呼応してくれる。わしがやらなければならんことは、ただ一つ。
「育った弟子を取り返す為に。先輩の仇を取り、過去の自分に決着をつける為に。ピサロ、わしは今ここで、お前を打ち倒すっ!」
「……ヒャハッ」
わしの怒号を聞いたピサロは、狂ったかのように笑い出した。
「ヒャーッハッハッハッ! 良いですよ良いですよお。初めての遊び相手が貴方なら、不満も不足もありません。カァァァナメくゥゥゥん、あァァァそびィィィましょォォォッ!」
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