鶏肉オア鳥意図

硝水

第1話

 文鳥ってどんな鳥だっけ、と呟くと彼女は黒縁眼鏡を拭きながら答えた。

「詳しくないけど、嘴が桜色のやつじゃない?」

 それって少なくとも私より詳しいよね、と思った。

「そうなんだ」

「それがどうかした?」

「べつに。ときどき、鳥を飼う想像をするんだ」

「飼わないの?」

「まだ。でさ、飼ってた鳥が死んだとき」

「飼う前から死ぬときの想像までしてるの?」

「そういうもんじゃないの?」

「や、どうだろう。何も飼おうと思ったことがない」

 そうだね、そうかも。私もシュレディンガーの猫アレルギーだし。みなそうだ。

「で、死んだときにさ」

「うん」

「焼き鳥にして食べようと思うんだけど」

「じゃあ鶏のほうがいいんじゃない」

「そうだね、そうかも」

「ごめん、話戻していいよ」

「焼き鳥にして食べてもさ、骨も、羽も、少しの内臓も、食べない部分ってあるでしょ」

「そもそも食べる必要があるのか?」

「食べないとさ、同じ墓に入れないし」

「棺に骨入れてもらったら」

「骨って入れていいんだっけ?」

「しらないよ」

「とにかく、どうにかしてひとつになりたい、死んだ愛鳥と……そういうことを考え続けているとだんだん飼う気が失せてくる、大変そうだから」

「お前が勝手に大変な方向へ進んでいるだけだよ」

「だってさ、あっちにもこっちにもお墓をつくってたらさ、そのうち地球全土がお墓になっちゃうじゃん。死人は増える一方なんだよ」

「イスカンダルかよ」

「そう、第二のイスカンダルになっちゃうよ」

「で、あんたは私が死んだら焼き人間にして食べるの?」

「さぁ」

「そこはうんって言ってくれよ、真偽はさておき」

「うん」

「もう遅いんだよ」

「人肉の酸味を活かしたヒューマンシチューにするね」

「ギャッ想像しちゃった」

 しっかり拭いた眼鏡をかけて眼鏡拭きをバタバタ振りながらべえと舌を出す。

「私が先に死んだらシチューにしなくてもいいよ」

「それを聞いて安心した」

「まみちゃん私に食べられたいのに私のこと食べたくないんだね」

「乗っ取られそうだし」

「何を言ってるの?」

「そもそも、最初から、お前が変な話をしているんです」

「そうかなぁ」

「そうだよ」

「永代供養の胡散臭さについて常日頃考えたりはしないの?」

「しないっつーの」

 そうかぁ、そうかも。文鳥の飼い方ページを赤ばってんで消しながら、やっぱりまだ鳥はいいか、と思う。

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鶏肉オア鳥意図 硝水 @yata3desu

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