第6話 パンを焼く女
鼻をぐすぐす鳴らせていたマリーちゃんが落ち着くのを見届けてから、私はおはぎさんと来た道を戻る事にした。何往復目だと文句も言いたいけど、この件についてはそろそろ諦める事にする。壁抜けができないのは仕方ないとしても、瞬間移動くらいできてもよくない? なんて提案でもしようものなら「ではそのための設定を」とか言われるだけだろうし、おとなしく廊下を歩く。人間、少しずつでもちゃんと学んで成長してるんですよ。
ゆっくりと歩きそれなりに距離があった継母さん部屋にようやくたどり着くと、中からは微かに人の声が聞こえた。お義姉様のどちらかでも残ってるのなら、舞踏会への参加計画を聞けるかもしれない。
「水をお願いできるかしら」
「はい奥様」
そう意気込んで部屋に入った私の視界には、新たな登場人物が待ち構えていた。
「おはぎさん、もしかしてあの方は」
「女主人の部屋で対話をしているので家政婦の人でしょうね」
「噂の家政婦さん!」
業種の違いを差し引いても、多分家政婦さんの方が継母さんよりは年上だろう。どっしりとした安心感が半端ない。ふくよかな体と優しそうな目、この人が焼いたクッキーは絶対に美味しいという確信がある。決して駅構内とか駅ビルとかで、近くを通り過ぎた途端に暴力的に良い匂いをぶつけてくるクッキー屋さんのおばさんに似てるからとかそんな理由ではない。主人公の味方になってくれる乳母とか家政婦さんとかって、大体似たような雰囲気だよなぁ。と思ってから、そんなイメージを持ってるからこの家政婦さんは、私が想定する「ザ・家政婦!」を体現してるのかと納得した。
ええ、聞きませんよおはぎさんには。そういう仕組みの場所だって学んでますからね私も!
「あの子の……マリーのあの常識知らずはどうしたらいいのかしら」
「申し訳ございません」
「いいの、貴女の責任じゃないわ。やたら甘やかした母親と放置し続けた父親がいけないのよ。主人に逆らい貴女が仕事を失ってまで口出す事ではないわ」
家政婦さんは継母さんたちが再婚する前からこの家に勤めてる人なのか。マリーちゃんが産まれる前からこの家に勤務してるのかな?
「そりゃお母様は優しかっただろうけど、お父様ってマリーちゃんの事放置してたんですか?」
顔を寄せてぽそぽそとおはぎさんに聞く。優しいけどすぐに亡くなってしまったお父さんと、再婚相手に頭が上がらず実の娘への虐めを見てみぬふりしたお父さん。マリーちゃんの父親は後者だったって事なのか。
「先程の会話では、マリーには家の跡継ぎだという自覚がありませんでしたね。つまりそれに準ずる教育を受けていません。マリーに実権は渡さず婿に任せる、もしくは養子を迎えるという場合であったとしても、マリーの年齢を考えればすでに後継は決まっているはずです。それは家同士との契約なので後妻が口出しして簡単に破棄できるものでもありません。そして再婚相手はマリーの代わりになるような跡継ぎを産むために選んだ様子もない」
「マリーちゃんのお父様は何を考えてたんですかね? 隠居を考えていたとか……貴族って隠居できるものなのかな」
「時代と国によって変わるので一概には言えませんが、貴族を“隠居する”というのはまずないでしょうね。名誉称号であれば死ぬまで付き纏いますし、領主権という事でしたら後継に託して引退、というところでしょうか。その後継の存在が居ない訳ですが」
むぅ、と口をとがらせて考える。シンデレラの父親は何を考えていたのか。
「内川さん、因果が逆なんですよ」
「逆、ですか?」
マリーちゃんのお父様に一体どんな因果が?
「シンデレラの結婚は一目惚れ説を採用したので、王子は政治を考えられないアホという設定になりましたよね」
「アホって。まあ、はい、そうですね」
「同じ事です。今マリーが置かれている状況から遡ってください」
「マリーの現状、ですか。許嫁も義兄義弟もいない状況で跡取りの自覚もない……でもマリーちゃんがあんな事言いだしたのは、コゼットお義姉様にやる気を出させるために私が唆したからであって!」
「コゼットが舞踏会への参加に消極的だったのは何故ですか」
「えっ……そもそも王子様との結婚を考えていないから?」
「それは何故」
何故。何故、私はおはぎさんと問答をしているのでしょうか。
背筋に寒気を感じ、今なら冷や汗も顔面から吹き出せそうだ。この状況は間違いなく、物語の修正に関する要項で私が何かを見落としている。それを気付かせるための質問だ。
何だ。何を見落としてるんだ私。
一つずつ現状を脳内で振り返っていく。そして今度こそ、頭皮に汗が流れたのを感じた。
「王子様が……身分違いの女性を嫁候補として招待するアホ、だから?」
こくりとおはぎさんが頷く。
私が王子様をアホにしたせいで、巡り巡ってマリーちゃんまでが常識知らずな子になってしまった。
「……それとお父様とのご関係は」
「現時点での家族構成を考えればマリーはこの家の跡継ぎです。ですがその自覚がありません。何故か。教えなかったからですよ、誰も」
「教え、なかった」
「はい。家長である父親が、実の娘へ将来に関する必要な事を何も教えていない。これは十分“放置”に当たる行為でしょう」
「ネ……ネグレクト」
「そうとも言えますね」
ごめんマリーちゃん! 本当にごめん! お父様を亡き者にした挙句育児放棄ダメ親父にしちゃった! マリーちゃんの不幸の半分以上、私が原因な気がする!!
「こっちはただでさえ商売乗っ取りだなんだって余計な事言われてるってのに、マリーを嫁に出して何の関係もないうちの子に婿をとる? 噂を肯定したも同然じゃない」
ああ、お義母様が怒ってらっしゃる。というか、そんな噂が立っちゃってるんだ。そうだよね、嫁いだその直後に旦那がお亡くなりになられてるんだもんね。この部屋を見る限りお父様が残した仕事を引き継いでるみたいだし、そんな噂も……いや、娘たちに営業させようとしてたよね? 十分商売に口出ししてるから、乗っ取りが噂されても仕方なくない?
そんな疑問が顔に出てたらしい。ここぞとばかりにおはぎさんがぱかりとくちばしを開いた。
「では内川さん、もう一つ問題を出しましょう」
「嫌です」
「即答で拒否しないでください。何故マリーの父親は、この女性と再婚したと思いますか?」
即答で拒否したのに無視された!
何故、何故? 再婚理由? え、なんでだろう。実は元愛人だった説は多分ない。どのシンデレラストーリーでも、父親と母親は仲睦まじいのが基本だ。じゃあこちらも一目惚れ? それじゃぁアホ王子と変わらないな。アホだったのかな。マリーちゃんの事放置してたくらいだしな。いや、違う。マリーちゃんネグレクト事件は私が原因だから原作とは関係ない。だとすれば残るは。
「政略結婚、ですか?」
「状況を考えればそうでしょうね。再婚相手がまだ若い女性であれば、男児を授かるためというのが有力です。連れ子が男であれば、養子として迎え入れるついでにその母親と結婚するという事も考えられます」
「ついでで子供の母親と結婚しちゃうんですか」
「キリスト教では重婚が認められていないので、再婚相手とはすでに離縁して元夫の庇護から離れています。息子を養子として求めた相手に、見返りとして庇護を願う事もあるでしょう」
連れ子ならぬ連れ母か。母子一緒に引き受けてくれるなら親子関係も継続できるしいいのかな。いいのか、な?
「シンデレラの父親の場合はそのどちらにも当てはまりません。内川さんはシンデレラの父親が存命版の原作を知っていましたよね。その父親は、実の娘が虐められているのを止めましたか?」
「止めてないです。父親は継母の尻に敷かれていたので」
「ここから想定される、父親の再婚理由はなんでしょうか」
「えっ、ヒントはここまでなんですか?」
ヒントを出していたつもりは無いんですが、というおはぎさんの声は一度無視させてもらい、再婚理由を考える。二人は政略結婚。でも目的は跡継ぎじゃない。そして父親は継母さんに強く出られない。だとすれば答えは簡単だ。
「継母さんの方がお父様を援助をする立場にある政略結婚、だったんですね」
「よくできました」
やめてー! 私チョロいからー! 褒められるとすぐ調子乗るからー! にっこにこのエフェクトも仕舞ってー!
「女性側からの持参金はそれなりでしたからね。金と共に嫁いで来た人間の機嫌を損ねる訳にはいきません」
「それで、娘が虐められてても無視だったんですか」
「この点に関しては、家を守るため、という極めて貴族的な思考をしているんですけれどもね」
はぁ、とおはぎさんの口からため息が漏れた。
おのれお父様。金目当てで娘を生贄に差し出したのか。私の中でお父様の株は絶賛急降下だ。
「結婚してみたら旦那様は壊滅的に商売に向いていないし領地内のあちこちで問題は起こるし取り引き先は潰れるし流通経路は荒れるし、なんなのよ。この家呪われているの?」
お父様の株が急降下だからといって、継母さんの株が上がる訳じゃない。じゃないんだけど、なんか今、継母さんに同情したくなるような話が聞こえた気がする。
「シンデレラのお父様って商売に向いてなかったんですか?」
「当時の持参金というのは、妻の家から夫の家へと財産が移されるという意味ではなく、あくまで妻となる者が“持参”した物。女性側の持ち物なんですよ。そんな持参金を、跡継ぎ問題を後回しにしてでも必要としていたとなると家の経済状況も窺えるでしょう」
「嫁の家に借金を申し出たって事ですか?」
「事実関係を端的に言えばそういう事になりますね」
貧乏の理由、継母さんたちとは無関係だった。再婚前から貧乏だったんだマリーちゃん。
シンデレラの家が貧乏なのは、原作準拠なのか私が原因なのか。私のせいじゃないといいなぁなんて遠い目をしかけた時に、嫌な事に気付いてしまった。
「おはぎさん、何故この家は未だに貧乏なんでしょうか。継母さんがお金持参したはずなのに」
「運用に失敗したんでしょうね」
「お父様ーっ!」
政略結婚が成立するくらいの金額を吹き飛ばしたのかお父様よ! それは、なんというか、パンを食べたければ仕事をするべき、ですね!
「まともに使える人間がこの家で働いている貴女たちだけってどういう事? 旦那様ご自身に才覚がない上、部下にまで恵まれないなんて。挙句の果てにマリーは将来自分がこの家の女主人になるって自覚もない。とんだお荷物を引き受けたもんだわ。ああごめんなさい、貴女の仕えている主人に対して言う言葉じゃなかったわね」
「いえ、奥様のおっしゃる通りですので……」
継母さんの口調は乱れてくるし、家政婦さんは申し訳なさを通り越してもはや苦笑いになっている。
継子虐めの理由はこれだったのか。
貸したお金は使い果たされ、使い果たした本人には逝き逃げられ、残されたのは常識を持ち合わせていない娘だけ。虐めという手段を使った時点で正義は微塵もないけど、継母さんの胃痛だけは理解できてしまった。
「あの子、貴女の事を自分のお世話係だと思ってたのよ」
「奥様、それは」
「貴女の事を叱っている訳じゃないの。それだけ手がかかる子だったのでしょう?」
継母さんは空になったグラスを差し出し、家政婦さんに水のおかわりを注いでもらっている。
「掃除も洗濯も妖精さんがやっていてくれた事になっているんでしょうね、あの子の中では」
「えっと、あの、おはぎさん」
飲んでるの水じゃなくてお酒かなと疑いたくなる口調で継母さんの愚痴が止まらない。水でこれなんだとしたら、絶対絡み酒になるタイプだこの人。
「貴女の居場所を聞かれて書斎の掃除をしているって教えたら、虐めないであげてって泣かれたわ」
「前の奥様がお亡くなりになられてから、家政はわたしの判断で行っておりましたので……マリーお嬢様は、その……」
「誰がその仕事を担ってたのか知らないのよ。今となってはあの子が掃除って言葉を知っていた事の方が驚きね」
「おはぎさん、あの、おはぎさん」
会話が、継母さんと家政婦さんの会話の内容が不穏なんですけれども。
「パンは木になる実だとでも思ってたんじゃないかしら」
鼻で笑うように吐き捨てた継母さんに対して家政婦さんは何も言わない。雇い主である継母さんに遠慮してる訳じゃないのは顔を見れば分かる。
「料理女中がなんのために台所にいたのかも、貴女が毎日何をしているのかも知らなかったのよあの子」
「おはぎさん……」
せめて家政婦さんが継母さんに対して嫌悪の目を向けてくれれば、継母さんが出鱈目言ってるって信じられるのに。継母さんの言葉が本当なんだとしたら、マリーちゃんは。
「これはまた随分とグリムに寄りましたね」
「グリムに寄る、というのは?」
感心したようなおはぎさんの言い方にさらなる不穏が襲ってくる。
「内川さん、先程赤ずきんの話はしましたよね。時代の変遷と共に伝えるべき教訓の内容が変わっていると」
「差別はやめてみんな仲良く暮らしましょう。でしたっけ」
「そうです。昨今は悪役にも悪事を働く正当な理由があるタイプが多いので、まさしく時代ですね。ではシンデレラの教訓はなんだと思いますか?」
「それは……性格美人でいなければ王子様とは巡り合えませんよ、とかですか?」
うんうんとおはぎさんは目を閉じて頷く。教訓もなにも、物語の内容そのまんまなんですが。
「見た目の美しさもさることながら、心根の美しさは何にも勝る。というのが一つ目の教訓ですね。これに追加して、ペロー版もグリム版も二つ目の教訓があります」
「二つ目? 舞踏会に行くお義姉様を飾り立てるために流行は押さえておけとか、馬車が消えても徒歩で家に帰れるように足は鍛えておけとかじゃないですよね?」
「違いますね」
でも馬車を使って行くようなお城から、歩いて帰るって結構な運動量だと思うんだけど。心身ともに鍛えておけっていうのは教訓に成り得るのでは?
「ペロー版は分かりやすいですよ。物語の最後に必ず教訓が書かれていますから。二つ目は、どれだけ才能に溢れていたとしてもそれを見出してくれる代父・代母がいなければ意味がないという事です」
「だいふだいぼって何ですか?」
「貴族社会では後見人の役割も果たしますが、キリスト教における洗礼の立会人のようなものですね。名付け親とも呼ばれる存在でまさに今の内川さんの事です」
へぇ、キリスト教にはそんなものがあるんだ。なんて思ってたら私の事だった。え、私?
「サンドリヨンは代母が妖精だったので、魔法の力で舞踏会に参加できました。大した力を持たない人間が代母だった場合、ドレスを用意する事も継母と対立しサンドリヨンを助ける事もできませんでしたからね。可哀想な娘のまま生涯救われる事はなかったでしょう」
「人脈が大事、って事ですか? なんて夢のない」
「教訓に夢なんかありませんよ」
シンデレラって夢の塊じゃないの? シンデレラストーリーってアメリカンドリームなんじゃないの? そうだねアメリカ生まれじゃないねシンデレラは!
「ではグリム版、アッシェンプッテルの二つ目の教訓はなんだと思いますか?」
「あ、え? ペロー版とは違うんですか?」
「グリム版には代母は出てきませんから」
「ああ、動く木でしたね」
「原作の木は動きませんよ内川さん」
急に色んな事を詰め込まれて脳内がぐるぐるし始めた。木が動くのは私がそうなりたいと願った時限定の話だったわ。そうじゃなくてグリム版。ドレスを用意してくれるのは木だけど、色々手伝ってくれるのは鳥たちだったよね。って事は、動物に優しく? それって教訓か?
それらしい内容が思いつかずに腕を組んで悩み始めたら、おはぎさんのくちばしがツンツンと軽く頭に当たった。
「内川さん、シンデレラは童話と呼ばれるジャンルの物語ですよね。童話とは主に、誰が誰に語るお話ですか?」
「親が子供に、じゃないでしょうか」
「ペロー版は主に、貴族の子女に語られていました。ペロー自身が当時の国王に仕えヴェルサイユにも出入りしていましたからね」
「ヴェルサイユって……ペローさんってそんな時代の人なんですか!?」
「そんな時代の人です。さては内川さん、あまり世界史は得意じゃありませんね?」
高校時代は世界史を選択してましたとは言いにくい。違うの、点と点で出来事は覚えてるけど、それが線で繋がらないだけなの!
「そして百年以上経ってから、グリム兄弟がドイツでグリム童話の初版を書きあげました」
国の違いにばっか気を取られてたけど、時代も違うんだ。
「内川さん、あまり実感できてませんね? 現代人から見るとペローもグリムも同じように過去の作家と認識しがちですが、グリム童話の完成系とされる第七版が出版されてから現代までまだ二百年も経っていません」
「え?」
「ペローが明治時代の文豪だとしたら、グリム兄弟は平成デビューの新人です」
「相当時代が違いますね!? あっ、時代の変遷! 赤ずきん!」
「その通りです。そしてその頃には、貴族だけではなく庶民の間にもシンデレラの物語は多く広まっているんです」
「明治時代の貴族の子供向けの教訓が、平成庶民の子供向けの教訓に変わってるんですね」
ペロー版を知ってる人間からしたら、グリム童話が出た時に「はぁ?」ってなったのか。私が赤ずきんの改変聞いた時みたいに。原作によってちょっと話のディティール違うよね、って事じゃなかったんだ。
「では改めて。グリム版のシンデレラでは、親は子供に物語を通して何を伝えたかったと思いますか?」
「う、ぇ?」
目からウロコ状態で納得してたら忘れかけてた課題がもう一度出された。
貴族向けが人脈の大切さなんだとしたら、庶民向けは……。
「諦めない気持ち? 努力はし続けなさい、そうすれば王子様のように素敵な人と結婚できますよ、という未来への希望みたいな」
「内川さん、レディという言葉の語源を知っていますか」
「語源? なんですか突然」
唐突な話題の変更に動揺してしまったけど、おはぎさんは試験中に無駄話はしない。話はまだ教訓内容についてなんだと、なんとなく居住まいを正してしまう。
「パンをこねる人。言い換えればパンが焼ける人ですね」
「おはぎさん。レディというのはもっとこう、お淑やかで品があって教養があって、そんな大人の女性に対する言葉なのでは?」
「それはレディという言葉の意味です。レディの語源はパンを焼くことができる人。パンを焼くことができる人とは当時の一般家庭では一人前の女性である事を表します。つまり“レディ”ですね」
「パンが焼けたら一人前?」
何故パン。パンにそれほどの意味が? 自分で獲物が狩れるようになったら一人前、の女性バージョンみたいな事か? 結婚する時には自分で焼いたパンを持参しないとか?
「アッシェンプッテルはパンが焼けませんでした」
「また突然ですね? パン焼けなかったんですか?」
「継母に台所に追いやられ、義理の姉に虐められてアッシェンプッテルは家事を覚えます。そして一人でパンが焼けるようになり、ようやく一人前の“レディ”になれたんですよ」
「つまり、継母たちに虐められる前のアッシェンプッテルは半人前だったと」
「はい」
ここにきてまさかのシンデレラ半人前説。マリーちゃんは半人前だから非常識な発言をして、非常識な発言をしたからグリム版寄りの内容で、グリム版に近いからマリーちゃんは……。シンデレラって完成系淑女で、あとは王子様と出会えればお妃様街道まっしぐらなんだと思ってた。
呆然となる私の頬に、おはぎさんの羽毛がもふもふと当たる。
「アッシェンプッテルは継母たちに家事を押し付けられた事でレディとなり、レディとなったから王子に見初められたんです」
「じゃあもしかしてグリム版の教訓というのは」
教訓とは学びのための教え。物事の理解を深めるためとか、広い世界を知るとか、多様性を受け入れるとか……。
「当時、親が子供に童話を聞かせる理由なんて一つですよ。未来への希望なんて未確定であやふやなものではなく、生きるための教訓と躾です。家事ができるような一人前のレディにならないと、王子様には見初められませんよという」
「せ、世知辛ぇ」
「はい、世知辛い時代なんです」
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