一つ目の解

「分かりました、オリバー艦長。あなたの命令に従います。惑星に着いたらあなたをコールドスリープから起こします」

「レオ、それでいいんだ。これがベストなのだから。さて、私はちょっと寝てくるよ。なに、心配するな。すぐ君たちに起こされるのだから」

 もしかしたら死ぬかもしれないというのに、オリバー艦長の声は明るかった。無理をしているに違いない。

「じゃあ、あとは頼んだよ。エミリー、レオは心配性だから君がしっかりするんだぞ」

「ええ」

 エミリーの声はかすれていた。


* * *


 オリバー艦長が深い眠りについてから三日が経った。僕たちは無事、惑星にたどり着いた。あとは惑星に十分な酸素があるか確認できれば、艦長を起こせばいい。



「エミリー、酸素量はどうだい?」

 レオは不安そうに聞いた。これで酸素が足りなかったら、どうしよう。

「焦らないで。採取した空気の入ったアンプルをアルベルトで測定すれば、はっきりするわ」

 エミリーはアルベルトにアンプルを渡しつつ言った。

 


 数分という時間なのに、永久のように感じた。

「分析完了しました。この惑星の酸素量は地球とほぼ同じです。宇宙服を着ずに外に出ても安全です」

 アルベルトの冷たい声とは反対に、結果は喜ばしいものだった。

 思わずエミリーと抱きしめ合う。

「やったぞ、やった! そうだ、オリバー艦長を起こさなきゃ!」



 レオは静まり返った艦長室に入る。オリバー艦長が入っているカプセルが目に入った。あとは開閉ボタンを押せばいい。レオはボタンを押すのを躊躇ちゅうちょした。

 もし、故障して開かなかったらどうしよう? いや、そんなことはボタンを押せば分かる。えいやとボタンを押すと、プシューという音とともに、カプセルが開く。良かった、故障してはいなかった。


「オリバー艦長、やりましたよ! 無事につきました! 起きてくださいよ!」

 艦長からの返事はない。

「オリバー艦長?」

 レオがオリバー艦長に触ると、首がだらんとする。何かがおかしい! 慌てて脈を測るが、反応はなかった。レオは理解した。やはり、二度目のコールドスリープはうまくいかなかったのだ。


「レオをどうしたの?」エミリーが室内に入ってきた。

「エミリー、オリバー艦長は……」

「その声からすると、ダメだったようね……」

 レオは首を縦に振ることしかできなかった。

「オリバー艦長は残念だったわ。でも、彼の犠牲を引きずってはダメ。私たちがしっかりしないと、彼の死も無駄になるのだから」

 エミリーの声に力はなかった。

 そう、まだ僕たちは生きている。この広大な宇宙に残された、たった二人の人類だ。この惑星で生き延びる。それが、オリバー艦長にできる最大の恩返しなのだから。

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