第4話考えのあるカス
「いらっしゃいませ〜」
本日初の来店客に僕は少しだけ顔をしかめることになる。
もちろん相手が酔っており上機嫌だったからだ。
少しだけ面倒なことが起きそうなことを予感しながら…。
「いらっしゃいませ…」
眼の前の客である女性と目を合わせると彼女は話を聞いてほしそうな表情を浮かべていた。
何となく直感的にそう感じてしまったのだ。
「どうしたんですか?今日は快勝ですか?」
その女性は先日の帰り道のすれ違った女性客である。
「そうなんだよ。今日は珍しくツキが回ってきていたんだよ。朝から閉店までずっと当たりっぱなし。疲れたけど一人で飲んできた帰りなんだ」
「体力凄いですね。それにしてもこんなにエナジードリンク買って帰るんですか?」
「うん。打ってる途中に通常時だと眠たくなってくるからね。眠気防止だよ」
「それにしても…身体壊さないでくださいよ?」
「良いんだよ。楽しいことして、やりたいことして朽ちていくなら本望でしょ?」
「そうでしょうか?僕はできる限り長生きしたいですけど…」
「どうして?長く生きることに意味があるの?」
「それは…」
「まぁ人それぞれ考え方が違うよね。私は刹那的でもいいから絶好調で幸運な時があればいいって思う質だから。長いこと幸せが継続するとも思えないからね」
「そうでしょうか…」
「そうだと思うよ。周りの大人や子供を客観的に見るとそう思う。だから私は一瞬でいいから最高に幸せでいたいって思うんだ。それが二十代から三十代の短い間だけだったとしても」
「極端なんですね」
「昔から言われてきたよ。あんたは零か百しか無いのか…って呆れられてきたよ」
「でも…そういられるのは羨ましいですよ。自分で白黒はっきり付けられて他人の意見なんて聞かない。自分に自信があるってことじゃないですか」
「そんな良いものじゃないけどね。自分が間違っていないって必死で思い込んでいるだけだよ」
「ですか…」
「そうだ。一本奢るよ。この後も朝まで仕事なんでしょ?頑張って」
そう言うと彼女はレジ袋に入っているエナジードリンクを一本、僕に手渡して薄く微笑んだ。
「ありがとうございます。今日の朝も出勤ですか?」
「もちろんだよ。毎日出勤だから。楽しくて仕方がないんだ」
「そうですか。楽しいなら何よりです。ですが身を滅ぼさないように」
「心配ないよ。大丈夫。じゃあ」
彼女はそれだけ口にすると店の外に出る。
出た瞬間にポケットからタバコを取り出したようでライターで火を付けると帰路に就いていた。
そこから僕も深夜中仕事に専念すると退勤の時間はやってくる。
帰り道に件の彼女と遭遇すると僕はエールのようなものだけを送って大人しく帰宅するのであった。
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