第3話陰キャと陽キャ

「いらっしゃいませ〜」

本日も深夜のコンビニに現れた癖の強い客の相手は始まるのであった。



「いらっしゃいませ。今日もたくさん買われていくんですね」

カゴいっぱいに品物を入れて現れた女性を目にして僕は思わずその様な言葉を口にしてしまう。

「あ…はい…。あまり外に出たくないので…一週間分の食料を買いに来ているんです…迷惑でしたか…?」

「いえ。そんな事は…ただ決まった曜日に来て頂けると発注はしやすいですかね…そんな贅沢なことは言えませんけど」

「やはり迷惑でしたか…」

「そんなこと無いですよ。純粋にお店の売上も上がりますし。深夜に誰かと話を出来るのは楽しいですし」

「そうですか…私と話すのでも楽しいですか?」

「楽しいですよ。一人じゃない夜は寂しくないですし」

「普段は一人みたいな言い方ですね」

「そんな事は…まぁ休日は大体一人ですけど」

「へぇ〜。私と一緒ですね」

「そうなんですか?」

「はい。極力誰にも会いたくないので」

「そうですか。一人が好きなんですか?」

「好きっていうか…一人で閉じこもっていたら…その内、誰とも話せなくなってきて…」

「今は話せていますよね?」

「たしかに…何ででしょう…」

「何でかはわかりませんが…話相手になれて嬉しい限りです」

「はい。ありがとうございます」

レジ袋に商品を詰めると彼女は会計を済ませる。

「また来週も来てもいいですか?」

「もちろん。しっかりとアイテム揃えておきますね」

「ありがとうございます。では」

レジ袋を両手に持った彼女はそのまま車へと向かう。

荷物を後部座席に乗せて運転席に乗り込むとエンジンを掛けて店を後にするのであった。



「お疲れ様でした」

早朝勤務の女性に引き継ぎを完了させるとバックヤードへと戻っていく。

「来栖くん。深夜勤務で困っていることはない?ワンオペで任せてしまっているけれど…なにかない?」

社員の店長は早朝だと言うのに早くから事務所でパソコンを操作していた。

「困っていることですか…これと言ってないですね。面倒な客も少ないですし。クレームを受けるようなこともないですし。楽しく仕事させていただいていますよ」

「そう。それなら良いんだけど…申し訳ないね。一人に任せてしまって。本当はもう一人付けたいんだけどね…」

「いえいえ。むしろ一人だからこそ仕事に集中できますし。周りの目を気にしないでいいので煩わしいことからも避けられています。逆に一人のほうが良いまでありますよ」

「そう。わかったよ。これからもよろしくね」

「はい。こちらこそ」

社員の店長と話を終えた僕は挨拶を口にしてバックヤードを出ていった。

そのまま本日も大人しく帰路に就こうとしていると…。

「来栖く〜ん!おはよう!今から帰るの?」

時々、深夜に酔いながらやってくる女性と鉢合わせてしまう。

「おはようございます。これから仕事ですか?」

「うん。これね」

そう言うと女性はボタンを三つ押す仕草と右手で何かを掴んで捻る仕草を取っていた。

「あぁ〜。そっちですか」

「うん。これも仕事みたいなものだから」

「そうなんですね。頑張ってきてください」

「ありがとう。今日は当たる気がするんだ」

「ですか。いってらっしゃいませ」

「来栖くんも来る?」

「いえ。今日も勤務があるので…帰って休みます」

「そっか。じゃあ勝ったら顔出すね」

「はい。では」

そうして僕らはその場で別れた。

因みにその日の深夜勤務の間に彼女が顔を出すことはないのであった。

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