第2話ヤニダチ

「いらっしゃいませ〜」

本日は金曜日である。

平日最後の深夜勤務であり疲れも溜まっている状態だった。

そんな僕のことなどお構いなく酔っ払いの客は本日もやってくるのであった。



「いらっしゃいませ。いつものタバコで良いんですか?」

確実に飲み会の帰りであろう眼の前の女性はレジの前に立つと後方のタバコの棚を眺めていた。

「うん。覚えてくれているんだ…もしかして…私に気がある?」

「何でそうなるんですか。深夜にタバコを買いに来るのはあなただけなんですよ。覚えるのは当然じゃないですか」

「ふぅ〜ん。そういうものなんだね。客のこと一人一人覚えているの?」

「そうですね。癖の強いお客様が多いので…」

「私も癖強いの?」

「そうですね…。だって…」

その続きの言葉を口にしようとしたところで目の前の女性はタバコを購入するといつものように僕に声を掛けた。

「一服付き合ってよ」

現在、店内には客の姿もなく僕はいつものように彼女の一服に付き合う事を決める。

「先に外に出ていていください」

「了解」

外に出ていく彼女を見送ると僕は缶コーヒーを二本購入する。

そのままバックヤードに戻っていくとユニフォームを脱いで外に向かった。

「どうぞ。奢りです」

「良いの?ありがとう」

「いえいえ。いつも一本もらうので」

「そうだよね。今ではタバコも高級な嗜好品だもんね」

「今では?昔のことを知っているんですか?」

「うん。昔はもっと安かったじゃん」

「えっと…失礼ですがおいくつですか?僕とそこまで変わらないと思うんですけど…」

「あぁ〜うん。親が吸っていたからね。そういうのに詳しいだけだよ」

「そうですか。意識していないと値段なんて知りませんもんね」

「とりあえずこの話やめない?」

「ははっ。そうですね。じゃあ頂きます」

そうしてタバコに火を付けて一服を開始する僕ら二人。

青白い煙が夜空に霧散していくのを眺めていた。

「仕事って面倒だよね。学生の頃は早く大人になりたいって思っていたけど…」

「そうですか?僕は楽しくやれていますよ」

「楽しい?変だね」

「癖の強いお客様のおかげで毎日退屈しないですよ」

「そうなんだ。休日は?何しているの?」

「趣味に時間を費やしていますね」

「趣味?」

「はい。プラモ作ったりボトルシップを作ったりパズルをしたり。時間を忘れて没頭できる手作業が好きなんですよ」

「へぇ〜。結構お金掛かる趣味なんだ」

「そうですね。でも制作時間を考えるとちゃんと元を取れているような気もしますよ。それに壊さない限りいつまでも手元に残るので」

「そっかそっか。私も楽しみ見つけないとなぁ〜…あっでも今のこの時間は好きだな」

「この時間?」

「うん。来栖くんと一緒にタバコを吸う時間。この数分が楽しみだよ」

「そうですか。それは光栄です。今日も飲み会だったんですか?」

「まぁね。金曜日だし。合コンに誘われて行っていたんだ」

「成果はどうでした?」

「いやいや。私は人数合わせだし。まるで乗り気じゃない態度でいたから誰も話しかけに来なかったよ」

「そうですか。恋人がいるとか?」

「全然。そんなの数年はいないよ」

「へぇ〜不思議ですね」

「何が?」

「いや…そこまで美女なら男性も黙っていないと思ったんですが…」

「なんか近寄りがたいってよく言われるよ」

「ですか…。僕はお客さんで来てくれる時の顔しか知らないので…」

「そうだね。別に普通の女性だと思うんだけどな」

「皆そうですよね。タバコありがとうございました。良い息抜きになりましたよ」

「うん。私もコーヒーありがとう。また来週」

「はい。ではまた」

そうして僕はバックヤードに戻るとユニフォームに着替えて再び深夜の作業を行うのであった。

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