第5話久しぶりに訪れた珍しい客
「いらっしゃいませ〜」
本日も平日なため深夜勤務に勤しんでいるところだった。
久しぶりに訪れた珍しい客に僕は少しだけ頬が緩むのであった。
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」
眼の前の女性は過去の常連客だ。
最近はあまり顔を見かけなかったのだが…。
何かあったのだろうか。
「お久しぶりです。最近引っ越しまして…」
「そうなんですね。じゃあ今日はどうして…いや、詮索するつもりはないんですが…」
「いえいえ。気にしてないですよ。実家が近所なんです。大型連休に入るので帰省してきました」
「あぁ〜。なるほどですね」
そんな言葉を残した僕は丁度目に入ってきたカレンダーで日付を確認する。
「来栖さんは帰省しないんですか?」
「僕は全部仕事ですね。帰省の予定はないです」
「そうですか。一年に一回ぐらいは帰っているんですか?」
「そうですね…出来るだけそうしたいんですが…」
「何か訳ありですか?」
「そうと言えばそうですね」
「私の方こそ詮索するような事を言って申し訳ないです」
「いやいや。普通に親子関係がギクシャクしているだけですよ」
「そうなんですね。それは辛いですね」
「まぁ僕が好き勝手に生きているので…両親が口うるさく言ってくるだけで…それ以外は概ね良好な関係ですよ」
「そうですか。好きに生きるのも難しいですね」
「時間もお金も有限だってうるさいんですよ。時間はそうかもしれませんが…お金は無限な気がしているんです。僕の勝手な意見ですけど」
「お金が無限?何か信じられないです」
「だって毎月入ってくるじゃないですか。それを上手に使えっていれば無限状態みたいなものでしょ?」
「結構割り切った考え方ですね。将来が不安にならないですか?」
「不安はあると思います。でも今を一生懸命に生きていれば。きっと未来でも同じ様に生きていられると思うんですよ」
「なるほど。何か少しだけ勇気貰えた気がします」
「勇気?」
「はい。仕事で疲れていて…考えすぎていたんです。でも来栖さんの話を聞いたら何処か割り切れたような気がします。ありがとうございました」
「いえ。僕は何もしてないですよ」
「これ。奢りです。深夜勤務大変だと思いますが…頑張ってください」
「ありがとうございます。頂きますね」
「では。またいつか」
彼女は僕に缶コーヒーを一本手渡すとレジ袋を手にして帰路に就く。
本日は酔っ払いではなく久しぶりに訪れた珍しい客と他愛のない会話をして過ごした深夜勤務だった。
帰宅した僕は両親のことを少しだけ考える。
僕は家族と後どれぐらいの時間を一緒に過ごすことが出来るのだろうか。
そんな事を考えながら床に入る。
目を閉じて…。
ゆっくりと心安らかに夜まで眠りにつくのであった。
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