第八章 壹与擁立 ④張政送還
西暦255年。
壹与が倭国王になって三年、張政は倭国中を駆け回り、政権が安定するかどうかを見て回った。
「天帯彦様、国中見て回りましたが、反乱の恐れは無い様です。壹与様も大きく成長されて、伊声耆と掖邪狗も立派にお支えしております。
倭国連合の主要各国の領主も、各々委奴国に駐在して政権を支えており、諸事万端滞りなく進んでおります。
此の儘、壹与様の御代も万々歳で御座いましょう」
「張政殿、本当に何から何までお手を煩わせて、申し訳御座いません。
私がもう少し若ければ、何でも一人で出来るのだが、一人で勝手にやらないのが、良いのかも知れません。出来るだけ諸国の意見も聞くようにしましょう」
天帯彦は年を取ったが、倭国王の壹与を、文官の伊声耆と武官の掖邪狗が、立派に補佐しており、反乱の心配は少なかった。
「ただ心配なのが卑弥氏の動向です。やはり今でも絶大な人気があり、お慕いする豪族は、かなりの数に上ります。
何かのはずみで、集中して団結しなければ良いのですが?」
二人が最も懸念したのが、狗奴国の大毗毗である。
嘗ての様な勢いは無くなったが、近畿奴国の丹波から嫁を採ったのを契機として、匈奴との関係を強くした。
更に大毗毗の、息子の日子坐は山代国や近江国から嫁を貰い、孫は委奴国から嫁を貰うなど、勢力を広げた。
然し、狗奴国に倭国連合国と仲良くしろと言ったのは、天帯彦であり張政なので、今更ながら制限することは難しかった。
「天帯彦様、王頎太守の縁戚である王将軍と鉄騎兵十名を残していきます。馬を育て鉄騎軍を育成する足掛かりとして下さい。
倭国軍は今でも十分強いですが、機動力が付けば、鬼に金棒です」
多少の懸念と王将軍を残して、魏の皇帝に壹与を倭国王と認めて貰うべく、張政と鉄騎軍は帯方郡に帰って行った。
壹与は、倭国の武官であり率善中郎将である掖邪狗ら、二十人を帯方郡に派遣し、
魏の朝廷に朝貢することを依頼した。
帯方太守王頎は張政に、掖邪狗を朝廷に引率して、報告書を提出、更に口添えして事の顛末を皇帝に奏上する様に命じた。
その後張政は、帯方郡太守となり、張撫夷と呼ばれたそうである。
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