第八章 壹与擁立 ②クーデター
西暦250年。
張政は、魏の中郎将でもある難升米を委奴国王にと、大倭国の倭王天帯彦に書面で任命を依頼した。
「天帯彦様、近畿奴国と、旧狗奴国、狛国、越国にも伝えました。
難升米を、委奴国王とする事に、異議など有る筈がありません。
若し有ったとしても、異議なぞ言わせません」
ところが、この件を納得できない者が、近畿には多数いた。
先ず近畿奴国の連中である。少なくも京都盆地や大阪平野の一部を新たな領土に、元狗奴国の兵士や農民を奴隷に、出来るものと考えていたからである。
又、旧狗奴国の国王や文官は、嘗ての呉国の末裔の本家であり、分家である天氏が狗奴国を取り上げて委奴国にするとは、考えてもいなかった。
そう思っても、大倭国の倭王に異議を唱える事までは、決心がつかなかった。
西暦251年。
それを忖度し反対の声を上げクーデターを起こしたのが、狗奴国武官の多芸志彦、将軍の諸進と副将の刺肩別である。
多芸志彦が、諸進と刺肩別に命じた。
「卑弥呼弓様や狗古智卑狗様は、倭王の天帯彦様や倭女王の卑弥呼様に遠慮して異議を唱えなかったのに、何と天帯彦様が卑弥呼様を殺してしまった。
此の儘では、卑弥弓呼様や邪馬壹国王の卑弥彦様の命も、どうなるか分からない。俺たちはどうなっても良いが、お二人の命は必ず守らなければいけない。
張政を人質に取り、お二人の命を救うのだ」
「オー。必ず救い出すぞ」
諸進と刺肩別は、全身に血が漲るのを感じた。
邪馬壹国軍や投馬国軍等の、大方の大倭国連合軍は、既に地元に引き上げていた。
残っているのは、近畿奴国軍と張政軍、他に委奴軍となった旧狗奴軍だけであった。
多芸志彦は、狛人と越人、旧狗奴軍にも頼み込み、近畿奴国軍と張政軍が占領する纏向の都を取り囲み、攻撃を仕掛けて行った。
地の利は多芸志彦に有った。少ない人数でも、包囲は簡単には解けなかった。
クーデターは、大倭国連合軍に鎮圧されるはずだったが、「難升米に反対」の声が列島中に拡散し、倭王である天帯彦も、鎮圧に乗り出さざるを得なくなった。。
邪馬壹国と投馬国に、筑後奴国も加わって、加盟国同士で大規模な戦闘が始まり、互いに殺し合い千人が死んだ。難升米も死んだ。
大倭国連合にとっては大きな損失であり、連合に加盟している其々の国にとっても大きな禍根を残すこととなった。
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