第八章 壹与擁立 ①卑弥呼以死
西暦248年。
卑弥呼は伊都国で、邪馬台国との戦争が穏便に済む様に、淡い期待を抱いていた。
その最中九月五日、何の前触れもなく、突然太陽が陰り始め皆既日食が起こった。昼間なのに、右も左も判らないほど真っ暗になり、大倭国の全てが大混乱に陥った。
人々は、卑弥呼の霊能力が無くなったから太陽が失われてしまったのだ、と信じて疑わなかった。
「お天道様が無くなるなんて、有り得ない。神様の祟りだ。卑弥呼に倭女王の資格は無い、卑弥呼を殺せ」と言う声が満ち満ちて、あっと言う間に、卑弥呼は捕らわれてしまった。
卑弥呼は大倭国の全ての国に、皆既日食を招いた鬼道の衰えを非難され、同時に、不弥国と筑後奴国には、狗奴国を含む邪馬台国が争いを起こした責任を追及された。
卑弥呼は、宗教上の責めと、大倭国を乱した責任を取らされ、天帯彦に殺された。
張政軍が近畿から戻る前に、大倭国は内部分裂を起こしてしまったのである。
何も知らない張政は、伊都国に戻って初めて驚いた。
卑弥呼の死を悼む張政は、倭王の天帯彦に命じ大きな墳丘墓を作らせ、奴婢百人を徇葬して弔った。
張政は倭王の同意を得て、大倭国の一大率の難升米を、委奴国王にすると決めた。
西暦249年。
張政は、不弥国国王の天帯彦と文官の多摸、筑後奴国王のギスクと文官のジマク、伊都国の文官の伊声耆、邪馬壹国王の卑弥彦と文官の伊支馬、一大率である難升米を集めた。難升米を、委奴国王に据える事の承諾を求めるためであった。
張政は、共に邪馬台国と戦った同志に対し、懇切丁寧に説明した。
「この度の皆様方の働きは、援軍に来た魏軍としても、とても満足いくものでした。
倭王に成り代わり、厚くお礼申し上げます。
卑弥呼殿の事は残念でしたが、邪馬壹国の卑弥彦殿も、心を入れ替え呉や狗奴国と絶縁すると云う事なので不問とし、大倭国の発展に協力して頂きたい。
一方、狗奴国の責任は重大であり、国王を変えざるを得ず、難升米殿に任せたい。
異議があれば、この場で申し出て下さい」
筑後奴国王は、難升米の行いに不満があったが、口に出しはしなかった。
西暦250年。
張政は近畿へ戻り、近畿奴国の文官と、邪馬台国連合を組んでいた、越国と狛国の文官を呼びつけ、命令調に申し付けた。
「この度の戦争は、お前たちが原因である。今度したら承知しない!
お前たちが悪さをしないように、見張りを付けるため、難升米を委奴国王とする。分かったな?」
近畿奴国は新たな領土が貰えなかったし、越国と狛国は領土を大きく減らされて、共に不満が有ったが、口には出せなかった。
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