④纏向接収

西暦248年、夏。 


 難升米は張政の指示で、大倭連合の使者として降伏を勧告する文書を携え、纏向の都の中央に有る邪馬台連合の宮城へ入って行った。


 そこには、邪馬台連合の盟主である卑弥弓呼が、憮然とした表情で待っていた。


「卑弥弓呼様、久方振りにお目見え致し、残念ながら心よりお悔やみ申し上げます。このような結果と相成り、本当に申し訳無く、弁明の仕様も御座いません。

 

 不本意では御座いますが、大倭連合を守るために已むを得ず、魏の帯方郡に援軍をお願い致しました。

 その結果として、魏の帯方郡より、塞曹掾史の張政殿が援軍に来て下されました。

 

 大倭連合の倭王天帯彦様におかれましては、連合を守る為の仕儀に他なりません。

 悪意はあれ、近畿奴国も大倭連合の一員です。狗奴国の思うようには出来ません。

 

 かつてご提案した時までは、大連合を組む事が最善であると思っておりましたが、今となっては、大倭連合が邪馬台連合を併呑し、纏向の都は接収せざるを得ません。

 残念ながら、他に選択肢は御座いません。悪しからず、ご了承ください。

 

 つきましては、宮城をお譲り頂くに際して、張政殿を改めてご案内致しますので、ゆめゆめ粗相無きよう、重ねまして、伏してお願い申し上げます」


 翌日、日を改めて張政が入城し、玉座に座った。


「卑弥弓呼殿、残念ながら、狗奴国は戦いに負けた。邪馬台連合も負けたのだ。

 広い狗奴国の領地は没収し、大倭連合で分割し、連合加盟国で統治する。


 卑弥氏が潔く負けを認め、大倭連合の配下と成るならば、命は助けよう。

 命を助けた上で、狭くて申し訳ないが、領土を与えても良い。

 

 しかし、邪馬台連合を残す訳には行かない、邪馬台連合は解散とする。

 解散した上で、邪馬台連合の加盟国は、大倭連合に加盟して貰う。


 近畿の中央である狗奴国の跡地には、新たな国を建て、その名を東倭国とする。

 東倭国王には、大倭連合の一大率を兼務し、難升米殿に務めて貰おうと思う。


 難升米殿はかねてより伊都国駐在の一大率だから、纏向の都も治められよう。

 一大率の難升米殿ならば、もし反乱があっても、十分に抑えられる筈だ。


 纏向の都は東倭国の都だが、暫くの間、東倭国を大倭連合の首都にしたい。

 大倭連合の加盟国が進駐する軍の基地、としても使わせて貰う。


 いかが、かな?

 いやだと言われても、困りますが。

 この他には、やりようが無いのでね。

 それとも、あくまで戦で決着をつけますか?」

 

 卑弥弓呼の息子に、大彦と布都押信がいたが、共に狗奴国を継承できなかった。

 

 大彦は、後の東倭国王御真木入彦の将軍となって、東国を制圧した。

 卑弥弓呼の息子が布都押信、その息子が建内宿祢、である。


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