第七章 全面戦争  ①魏軍参戦

西暦247年、冬。


 かつて卑弥呼が都とした邪馬壹国と、卑弥弓呼が王となった狗奴国。

 拘奴国から分かれた二つの国が、心ならずも全面戦争をする羽目に陥った。


 張政は、詔書と黄幢と武器を携え、百名の鉄騎兵と共に、対馬海峡を渡った。

 伊都国に到ると、不弥国から急ぎ駆け付けた倭王と面会した。    

「天帯彦様、卑弥呼殿から使者を頂いたが、今回の詔書と黄幢は、難升米殿宛です。  

 他人宛の文書の封泥を勝手に開封するなど、感心しませんな。

 事態が火急なので、王頎太守は不問にされていますが、本来ならば責任問題です。

 卑弥呼殿には、 厳重に注意しておいてください」

 

 日を改めて、急遽近畿から戻って来た難升米に面会し、詔書と黄幢を拝仮した。

 難升米は、魏の役職を持つ中郎将であり、大倭国連合の一大率でもあった。

 

 倭王に檄を飛ばし、大倭国連合の兵士全員が魏の皇帝の兵隊である、と宣言した。

 ここに至り、大倭国連合と邪馬台国連合の、代理戦争が勃発する事となった。


 難升米は、不弥国や奴国を主力とする軍と、邪馬壹国や投馬国を主力にする軍の、合わせて三万の連合国軍を結成し、張政率いる魏軍の鉄騎兵と共に、近畿を目指して九州の北と南から出発した。


西暦248年、春。 


 不弥国と筑後奴国が主力の軍と張政軍は、瀬戸内海を船で進み、大坂の淀川河口に上陸した。


 張政軍の鉄騎兵は、上陸するや否や先頭を切って大阪平野を東へ向かい、一直線に奈良盆地の北側の広い入口を目指した。


 東大阪までの道は、湿地が多く少し手間取ったが、騎兵は一団に纏まって進んだ。東大阪の砦に着くと、鉄騎兵の猛攻が始まった。


 張政は、鉄騎兵を前に、檄を飛ばした。

「邪馬台国の兵士どもに、魏軍の強さを見せつけてやれ。

 中でも狗奴国は、憎き呉と繋がっている。以ての外だ。

 一人残らず、駆逐して、殲滅しろ」


 それは今までに、倭の国の誰一人として、見た事も聞いた事も無い、早さだった。

 馬に乗って鉄戈を振り回し、刃が触れるもの皆、切り棄てた。

 鉄の鎧と兜を身に着け、向かい来る矢を物ともせず、駆け回った。

 馬上から弓を引く者もいれば、低い木柵を止まる事なく馬で飛び越える者もいた。

 火炎瓶の様な物を持っていて、飛び越した後で、振り向きながら投げ点けた。

 燃える火の球を投げるので、防ぎようがなかった。


 鉄騎兵が通り過ぎた後は、燃え尽きた砦の残骸と、狗奴軍の死骸の山だった。

 大倭国連合軍の先鋒は、跡片付けをしながらの、戦うこと無き進軍となった。

 後に続く大倭軍の本隊に、広く開けた通路を確保するのが、仕事の様だった。

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