②狗奴国反発
狗奴国の卑弥弓呼は、大倭国の倭王・天帯彦から提示された、謝罪と弁償を求める書簡に不服だとして休戦を破棄し、三千人もの兵を動員して峠を越え、近畿奴国領に攻め込み、亀岡城の包囲を強化した。
近畿奴国も丹波篠山と福知山の城から救援を出し、亀岡盆地の北西の八木の岡に、二千人の兵が終結したが、直ぐには攻撃を仕掛けず、様子を窺っていた。
近畿奴国は、兵士の数に開きがあることを認識したのか、膠着状態に陥った。
狗奴国は、これを打開するため内密に、千人を亀岡城に残し、千人を諸進が率いて盆地の東側の山裾を進み、千人を刺肩別が率い西側の山裾を進んだ。
諸進と刺肩別は、共に八木の岡からは見えない位置に待機し、夜になるのを待って同時に秘かに近づき、一斉に火矢を放った。
流石の近畿奴国軍も、これには驚き右往左往して逃げ惑った。火を消したかったが川から距離があったので、それもできずに火の勢いは盛んになるばかりだった。
狗奴軍は、火矢の扱いに慣れてきて、何処に打ち込めば最も効果的に燃えるかも、分かってきた。
近畿奴国軍は堪らずに、それぞれが来た丹波篠山と福知山方面に分かれて、一斉に逃げ帰り始めた。
そこですかさず、諸進隊が丹波篠山へ追い、刺肩別が福知山へ追い駆けた。
逃げ道は、山間の狭い峠道である。匈奴は、山や林の中での戦いは得意であるが、暗い山道で火矢に追われては、如何ともし難かった。
山の木を焦がす炎は渦を巻きながら勢いを強め、その明るさは、真昼と見間違う程明るかった。
丹波篠山へ逃げる匈奴は、天引峠を越えた所で無暗に火矢を打ち返してきたので、諸進隊はそれ以上追うことが出来なくなった。
仕方なく百人を其処に残し、亀岡へ引き返した。
福知山へ逃げる匈奴は足が速くて、刺肩別隊は振り切られ、京丹波を過ぎた辺りで見失ったので、百人を残して亀岡に戻った。
亀岡へ戻った諸進と刺肩別は、城を囲んでいた部隊と合流して、攻略に着手した。
攻略の前に、亀岡城の将軍ケソクとの城明け渡しの交渉のために、諸進は刺肩別を使者として入城させた。
「ケソク殿、二度に亘る近畿奴国の侵略に対して反撃せざるを得なかったが、これに対して、倭王の天帯彦殿より謝罪と弁償を求められるとは、思いもしなかった。
無論承服しかねるので、今から攻撃を始めるが、城を明け渡すなら命は助けよう。
如何されるか?」
ケソクは、即刻これを断った。
「笑止千万、受けて立つ!」
そのため、狗奴国軍は本格的な攻撃に踏み切った。縦も横も四百メートルの城を、四方から囲み、一斉に火矢を射続けた。
しかしながら、倭人の城と違って、匈奴の城は材木だけでは出来てはいなかった。
城壁も家屋も、石を積み上げ泥を粘着剤として組み上げられていたので、狗奴国軍が火矢を放っても、燃え上がることはなく、攻略方法を考え直す必要があった。
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