第五章 支援要請 ①謝罪要求
西暦242年、春。
筑後奴国の文官ジマクは筑紫に帰り着くと早速、大倭連合の倭王で不弥国王である天帯彦に、事の顛末を報告した。
報告を聞いた天帯彦は、不弥国の文官の多摸を、不弥国の宮廷に呼び出した。
「ジマクが言うには、狗奴国が、近畿奴国との最初の戦で捕虜を取り、二回目の戦で亀岡城を包囲して兵糧攻めにした、との事だが本当か?」
「それは間違いありません。どちらも近畿奴国が始めた戦です。二回共、大倭連合の仲裁を無視したので、狗奴国の怒りを買って反撃に逢い、逆に遣り込められました。自業自得と言わざるを得ません」
「と言う事は、奴国も狗奴国も共に、大倭連合の仲裁に楯突いたと言う事だな。
黙って見過ごせば、大倭連合の沽券にかかわる。
奴国は、加盟国でありながら性懲りもなく、大倭国乱の二の舞にするつもりか?
狗奴国は先に支援を要請しながら、仲裁に反して、奴国兵を殺すとは何事だ。
この、それぞれの国が犯した過ちを、決して許す訳にはいかない。
喧嘩両成敗として、奴国と狗奴国の双方に、謝罪と弁償を要求しろ。解ったな?」
「ははー、了解しました。早速に文書に纏めますので、ご承認をお願いします」
気候が穏やかになるのを待って、大倭連合の倭王の天帯彦は、全権委任特使として不弥国文官の多摸を、狗奴国と近畿奴国へ派遣した。
西暦242年、夏。
多摸は狗奴国に到着した。宮城に参内し、卑弥弓呼に面会を求め、書簡を渡した。書簡には、近畿奴国と狗奴国の両方に非があり狗奴国にも謝罪と弁償を求める、との大倭連合の倭王としての天帯彦の厳しい言葉が書いてあった。
「卑弥弓呼様お久し振りです。倭王には十分説明したのですが、大倭連合としては、加盟国の奴国の責任と権利も要求しなくては収まらない、とお考えです。
責任とは、仲裁をしたにもかかわらず、奴国がこれを破り狗奴国に攻め込んだ事。
権利とは、仲裁を受けた狗奴国から、領土が侵略されず、兵士が殺されない権利。
不承不承でしょうが、何卒ご理解の上、ご協力をお願い申し上げます」
「多摸殿、何時も何時も、お手数をお掛けしてしまい、申し開きの仕様も御座らぬ。
然し乍ら、二回とも奴国が侵略して来たのですよ。
反撃しなければ、領土を取られていた訳ですから、権利以上に侵略行為の反省と、罪の重さを考えて頂かないと困ります」
「そう仰いましても、多くの兵を殺し捕虜を取ったと云う事と、反撃して侵略し城を包囲して更に多くの兵を殺したのは事実ですから、何らかの反省の意思を示すのは、外交上の礼儀ではありませんか?」
「謝罪したら奴国は更に付け上がり、再度侵略を試みるだろう。又、弁償と言うが、此方も多くの兵が殺されたのだ、お互い様ではないか。
大倭連合として、奴国が今後決して侵略しないと確約するなら、天帯彦様に対して謝罪してもよい」
「天帯彦様とて、検討に検討を重ねて下された決定ですから、条件闘争の様な事は、お止め下さい」
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