④卑弥弓呼の葛藤
西暦241年、秋。
難升米は、多芸史彦と諸進、刺肩別を伴い、奈良の都の卑弥弓呼に報告に行った。
「卑弥弓呼様、今回も、奴国がやり込められたので、ジマクは面白くないようです。天帯彦様の判断を仰ぐべく、大倭連合へ戻りました」
難升米の報告を聞いて、卑弥弓呼は改めて悩み始め、独り言を言った。
(そもそも、国とは何なのか?
個人が幸せなら国は必要ではなく、小さい集団でも良いのではないか?
それとも、攻め滅ぼした国の奴隷が現に居るから、民族としての国が必要か?
奴隷とは、農民とは、貴族とは、一体全体何なんだ?)
先祖から引き継いだ儘、普段は気にも留めていなかったが、改めて考えてみると、全てが解らなくなった。
(なぜ、奴国は侵略するのか? 奴国と伊都国と不弥国の繋がりは何か?
不弥国と邪馬壹国の関係は何か?)
知らない事が多過ぎると、改めて実感した。
(狗奴国として、邪馬台連合として、為すべき事は何か?
大連合は、本当に必要なのか?)
卑弥弓呼は、考えれば考える程判らなくなり、狗古智卑狗を呼んで尋ねた。
「先祖の若御毛沼が新たに国を作ってから、百年が過ぎたが、此の儘で良いのか?
他国を侵略したくはないが、うかうかしていると近畿奴国に侵略されてしまう。
大倭連合と大連合して不弥国に頼ったら、不弥国に侵略されるかも知れない。
連合と大連合の違いが無いなら、小連合の儘で良いのではないか?
全ての国が、戦争をしないで、一つの連邦に纏まりながら、思う所を主張し合う。
国の違いを越えて人員や資金を出し合い、連邦軍を警察として治安の維持を図る。
加盟国同士の侵略や戦争は認めず、違反した場合は、連邦軍を派兵して鎮圧する。
そんなことが出来れば理想だが、狗古智卑狗は、どう思う?」
「私は文官で、戦の事は良く解りませんが、今の儘では拙いのは間違いありません。
以前連邦制が良いと申し上げましたが、戦争をせず統一する事は不可能でしょう。奴国とは決して仲良くなれません。不弥国や大倭連合とも上手く行かないでしょう。
大倭連合が魏の柵封に入ったのは間違いありません。冊封に入る前なら大倭連合と大連合を組む事も出来ましたが、今となっては不可能です。
大連合を組むと云う事は、狗奴国も冊封に入ると云う事です。呉がそれを許す筈がありません。邪馬壹国が呉と通交していることも、魏に知られたら大変です。
卑弥弓呼様が考える連邦は理想ですが、呉や魏との関係や奴国の存在を考えると、実現は不可能でしょう。
それなら、呉の柵封に入った上で武力の支援を受け、近畿奴国を侵略して併呑し、邪馬台連合の領域の拡大を目指した方が、良いのではないでしょうか?」
卑弥弓呼は、居住まいを正して、改めて狗古智卑狗に確認した。
「それは即ち、邪馬壹国や伊都国とも縁を切って、自立の道を進むと云う事だな!」
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