③奴国との対談
西暦241年、夏。
難升米は、多芸志彦を伴って亀岡城に入り、ジマクに面会し自戒を求めた。
「ジマク殿、狗奴国の卑弥弓呼様の名代として多芸志彦殿をお連れした。今迄の因縁は水に流し、将来の和平について、腹を割って話をしようじゃないか。
そもそも、倭王の天帯彦様と倭女王の卑弥呼様が、大倭連合の安寧と繁栄のために邪馬台連合との大連合を目指されていることは、知っているであろう。
それを知った上で更に大連合の締結を逆なでするような侵略は、大倭連合の規約に反していると思われるが、如何かな?」
ジマクは、筑後奴国の文官だが、大倭連合のキーマンでもあり、元々は近畿奴国と狗奴国の交渉を仲介するために、近畿へ派遣されたものであった。
ジマクは、難升米とは互いによく知った間柄だったが、激しく反論した。
「難升米殿、遠路遙々ご苦労な事です。今回の出兵は、先の交戦で痛めつけられた、お返しに過ぎません。目くじら立てる程の事ではありませんよ。
それなのに、千人もの兵で反撃とは、和平を考えているにしては多過ぎませんか。
そもそも、難升米殿はどちらの味方ですか?
あなたは、大倭連合の幹部で、伊都国駐在の一大率様、ですよね。
だったら邪馬台連合との大連合より、大倭連合加盟国の権利を尊重してくれても、良いんじゃないでしょうか。
天氏が姫氏の分家だからと言って、邪馬壹国を分けた狗奴国には、何も言えないんですか?
邪馬台連合の加盟国の言い分ばかり聞かないで、何とかしてくださいよ」
難升米はこれに怒りながらも、出来るだけ声を抑えて説得から脅迫に切り替えた。
「ジマク殿、私はどちらの味方でもない。
大倭連合加盟国の権利も、邪馬台連合加盟国の言い分も、私の知った事ではない。
私は魏国から率然中郎将の職を拝命した。場合によっては、倭の全ての国を相手に戦争を仕掛け、倭の国の全ての領土を占領することも、可能だ。
そうなったらどうする? 大倭連合だ、邪馬台連合だ、と言っている場合か?
そうならないように私は今、奴国と狗奴国の仲裁の労をとる事しか考えていない。
そしてお前達には、戦争を止めて共存共栄の道を探るしか、他に道はないのだ。
可能ならば今すぐにでも大倭連合と邪馬台連合の大連合を組みたいと思っている。
弱肉強食の世界ならば、何時まで経っても、平穏な毎日は望むべくもない。
各国が勝手にやるならば、小さな連合でさえ組む意味はないのだから、小異を捨て大同につく気概を、持ってもらいたい」
ジマクは、理解できずに、更に反論した。
「そもそも大連合を組む必要がありますか。大倭連合としては邪馬台連合を侵略して併呑する方が大倭連合のためである、筈だったですよね?
違うと言い切れますか」
難升米は、小さな戦争の先にある大きな危険について、更に諭した。
「そんなことをしたら、邪馬台連合は南の呉と組むかもしれない。
そうなったら、魏と呉の、まさに代理戦争になりかねない。
倭の国の全てが、灰燼に帰すのだぞ。
若しそんな事に為ってしまったら、お前は、どうやって責任を取れるのだ」
ジマクは、そこまで言われて憤慨し、話を打ち切った。
「このまま話を続けても、平行線の儘だ。交渉は決裂だ。
私は筑後に戻り、大倭連合の倭王である天帯彦様に、判断を仰ぐ事にする」
ジマクは、取敢えずの休戦の延長には合意した上で、筑紫に帰って行った。
天帯彦と難升米とジマクの、三者三様の思惑が衝突する事になるとは、この時点で誰も気づいてはいなかった。
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