第四章 狗奴国逆襲 ②狗奴国追撃

 亀岡に逃げ帰った奴国軍を、狗奴軍の諸進と刺肩別は、多芸志彦の制止を聞かず、峠を越えて山奥深く、追い掛けて来た。


 亀岡の城は、峠を過ぎ約四キロ奥まった所にあり、周囲千五百メートル位である。


 狗奴軍は亀岡の城を包囲し、全ての出入り口を塞いだ。補給網を遮断し、兵糧攻めにする為である。


 諸進が刺肩別に、力強く命じた。


「丹波篠山や福知山からの援軍を防ぐ為、亀岡盆地北側の峠の道も封鎖せよ」


 刺肩別が、すかさず応えた。


「北の方面は、既に五百ほどの兵を送りましたので、安心してください。

 それより亀岡城はいつ攻撃しますか? 城占領の時の使者は、私に任せて下さい。

 以前、捕虜を引き渡した際、一度、城に入った事がありますので、中の勝手は十分知っていますから」


「攻撃は、兵糧攻めの後だ。占領となった時は、その方に頼もう。

 和議の条件は、先ず亀岡城を引き渡す事。次に二度と侵略してこない事。それを、約束するならば命の保証をしよう。

 それが出来なければ、城に火を点けて、皆殺しにしてやる」


西暦241年、夏。


 難升米が、不弥国軍を連れて再度、停戦の斡旋に訪れた。


 多芸志彦は、難升米を亀岡の陣に案内し、難升米に気を使い諸進を怒って見せた。


「難升米様は、停戦の斡旋に来て下さったのだぞ!

 奴国軍を追い返すだけならまだしも、追い掛けて城を焼き打ちする等、論外だ。

 弓を収めて、停戦に応じよ」


 真っ先に反論したのは、刺肩別だった。


「お言葉ですが、奴国が始めた戦です。全ての責任は、奴国側にあります。亀岡城を占領するくらい、良いじゃありませんか?」


「駄目だ、駄目だ、お前達は、難升米様に恥を掻かすのか。何の為に来て下さったと思っているのだ。城を奪われたら、近畿奴国が黙って居る筈が無いだろう」


 続いて、諸進も反論した。


「ですが、近畿奴国と和議を結んだとしても、約束を守る輩ではありません。狗奴軍が亀岡から退いたら又、京都平野に出て来て侵略を始めるに決まっています」


「だからこそ難升米様にお願いして、正式に、奴国との停戦を仲裁して頂くんだろ。行く行くは、大倭国との大連合を結ぶのだ」


 その後に、難升米が口を挟んだ。


「悔しいのは良く解る。だがな、亀岡を取ったとしても、又取り返されるのが落だ。いつまで戦を繰り返せば気が済むのだ。

 戦を終わらせる為に停戦し、大連合の盟約を結ぶしか無いんだ」


 諸進は、納得出来なかったが、不承不承として応えた。


「近畿奴国は約束を守らないでしょうが、そこ迄言われるのなら、従いましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る