第四章 狗奴国逆襲 ①奴国再侵攻
西暦240年、秋。
近畿奴国と狗奴国の間には、伊都国の文官爾支に依る二回目の仲介を受けてから、取り合えずの休戦が続いていた。
新たな仲裁のために、大倭国から派遣された難升米が、邪馬台国の宮城に到着して参内した。
「卑弥呼弓様、長い間ご無沙汰しまして申し訳御座いませんでした。多芸志彦殿より密書を頂いてから、時間は掛かりましたが、魏の支援を得ることが出来ました。
私も魏に中郎将の役を賜りましたので、奴国も迂闊には手を出さないでしょう。
委奴国の出身者としましては、私の役目が多少なりとも狗奴国のお役に立てれば、これ以上の喜びはありません。
但し、不弥国の倭王には、それ以外の考えもお有りのようなので、呉々も注意してお打ち合わせ為されますように、ご忠告申し上げます」
「解った。今回の仲裁は心強く思う。これで当分の間は、奴国が勝手に侵略して来る恐れは無くなるだろう。
不弥国の倭王に懸念はあるが、魏が出兵さえしなければ心配することも無かろう。今後はじっくりと、大倭国との大連合も考えたいと思う。
難升米よご苦労だが、不弥国の天帯彦様との間を取り持ってくれ。よろしく頼む」
「ははー、精一杯、努めます」
難升米が仲裁に乗り出したので、停戦かと思われたが、却ってそれが裏目に出て、何を思ったか、奴国軍が再度、侵略を始めた。
怒った狗奴軍が、千人超の大群で迎撃を加えると、奴国軍は慌てて撤退を始めた。逃げる奴国軍を追い掛けて、血気盛んな狗奴軍の連弩隊が、逆襲を開始した。
奴国軍は、狗奴軍の連弩隊と弓矢隊の逆襲に驚いて、撤退から逃走に変わった。
逆茂木を迂回し、川を越え、関所の塀に沿って逃げながら、必死だった。
近くに転がる兵士の死体に躓きながらも、一目散に峠を目指した。
後から、千人以上の狗奴軍が追って来た。追い掛けながらも、大量の矢を放った。狗奴軍は山での戦闘が不得手なので、奴国が砦を設けた山の麓の木々を焼き払った。
矢じりに布を巻き付け、油を浸し火をつけ、立ち木を目掛けそこら中に矢を放った。
恐れ慄いたのは、奴国軍である。秋の枯れ木は乾燥していて、一溜りもなかった。あれよあれよと言う間に大火となって、山全体が燃え上がり、逃げ道がなくなった。蜘蛛の子を散らす様に、散り散りばらばら戸惑いながら、逃げ延びる他なかった。
どの位経ったろうか、砦を出た時は五百人位居たのが、峠を越え逃げ延びたのは、僅か五十人ばかりになってしまっていた。
セモクとエコクが、何とか亀岡の城に辿り着いたのは、昼を過ぎた頃だった。
交渉役のジマクに、狗奴軍が逆襲に来たと報告すると、怒鳴られ、罵倒された。
「何の心算だ。待てと言ったのに勝手に攻撃を始めた上、負け戦をしておきながら、よくおめおめと城まで帰って来れたものだな」
セモクが必死に釈明した。
「あろうことか、難升米に裏切られました。その上何と、狗奴軍は千人もいました。更に、見た事も無い兵器を持っていました」
「どんな兵器だ」
「一度に、何本もの矢を打てる弓です」
「それは連弩だ、そんなことも知らんのか。鉄の盾があれば、防げるだろう」
「鉄の盾も突き抜けるのです」
「何があろうと、亀岡の城から退く事は一切罷りならん。体勢を立て直し死守しろ。丹波篠山や、福知山、豊岡の城からも援軍を出すから、死ぬ気で戦え」
「ははー、分かりました」
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