③狗奴国勝利
西暦239年、冬。
京都城では、多芸志彦が待っていた。
「諸進も刺肩別も、ご苦労であった。圧勝だったそうじゃないか。
匈奴も大した事は無いのかも知れんな。
それとも、我が軍の戦意の方が、相手よりも上回っていたのか?
とにかく、どっちにしても、良かった。
今回、攻め入った奴国兵は、どれぐらいいたんだ?」
諸進が、その時を思い出しながら、答えた。
「捕虜が百人で、残っていた死体が三百です。命からがら逃げた者が百位ですから、全部で五百位は居たようです」
「最初にしては多い数だ。邪馬壹国から買ったあの連弩が無ければ、危なかったかも知れないな。
それにしても襲撃のタイミングは、まるで川の水が凍るのを見計らった様だった。
やはり、油断は出来ないな」
諸進が、恐る恐る聞いた。
「一体、奴国軍はどれ位いるのですか、筑後奴国からも援軍が来ているようですが」
多芸志彦は、部下の心配をよそに、平然と答えた。
「筑後から説得に来た武官が軍師と参謀に入ったようだが、援軍と言う訳ではない。
邪馬壹国出身の卑弥呼様が大倭連合の倭女王として共立されたのだから、こちらにも大倭連合軍の支援が来る可能性はあるが、すぐには間に合わないだろう。
今後は、狗奴国軍と奴国連合軍との戦いになるかも知れないな」
刺肩別が提案した。
「そうなると、厄介ですね。いっそこちらから、先手必勝で攻め入りますか?」
これについては、多芸史彦は歯切れが悪かった。
「卑弥弓呼様も狗古智卑狗様も、邪馬壹国や伊都国や不弥国とは、戦をしたくないとお考えだ。一時的に奴国に勝っても、争いは無くならないし、戦争はすべきでないと思われている。真に立派なお考えだ。
しかし、いつ迄そう云ってられるか判らんな。一度があれば二度目もあるだろう。幾ら魏の支援があるからと言って、奴国が倭王の言うことを聞くかどうか分らんぞ」
諸進が、自身と刺肩別の不安を打ち消す様に、強がって聞いた。
「それでも、掛かる火の粉は振り払わねばなりません。いっその事、呉に武力支援を頼んだらどうでしょうか」
「呉は大倭連合が朝貢した魏と争っている。だからこそ呉に頼むのは難しいだろう。かえって、戦争がおおごとになってしまうよ。邪馬壹国が呉から武器を買っている事が、魏に知れたら大変だ」
諸進は、納得出来なくて、不安気に聞いた。
「もしかしたら大倭連合は魏に援軍を頼むかもしれません。若しそんな事になれば、事態は更に大変になりますよ。
のんびりと、待っているだけで良いんでしょうか?」
多芸志彦も、そこまで真剣に考えていなかったので、唸った。
「そうなると、俺の一存では決められないな。
纏向の狗古智卑狗様に、伺いを立てる事にしよう」
多芸志彦は急ぎ、奈良の邪馬台連合の都である、纏向の軽境原宮へと出発した。
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