②狗奴軍応戦
見晴らしが良くて水路が多い京都平野では、狗奴軍の守備力にも、強みはあった。今迄の経験では、川沿いに逆茂木を組み、川を渡って来る奴国軍を逆茂木の中段から狙って弓で射殺す戦法は、有効な筈だった。
この時、この関所で指揮を執っていたのは将軍の諸進で、副将は刺肩別だった。
諸進は川を見て困惑し、狙撃方法の変更を命じた。
「小畑川の水が凍ってしまっている。これでは簡単に渡られてしまう。こうなったら逆茂木から離れて、逆茂木を上る兵を狙って射よ」
奴国軍は多くが、右手に鉄剣を、左手には鉄の盾を持っていた。諸進が下から何度矢を射ても、盾に跳ね返されるだけだった。
刺肩別は、叫んだ。
「弓矢だけでは、役に立ちません。何か他の手を考えないと」
「じゃあ、どうする。他に、どんな手があるのだ?」
「二手に分かれて、挟み撃ちにしましょう。私が東側に回ります。将軍は西側に回り崖に上がって、石を落とす準備をして下さい」
「分かった」
狗奴軍が、陣形を崩して隊を分けると、奴国軍は一気に逆茂木を乗り越えて来た。五十人程が一塊と為り、鉄の盾で隠れ蓑を作り、集団で進軍を始めた。笛を合図に、塊同士が間隔を取り始め、狗奴軍が撤退しながら弓で射るのを、防ぐようだった。
峠から下るほど奴国軍の隊列は広くなり狗奴軍の防御は更に困難になった。奴国軍は平地に出ると、東・東南・南の三方に分かれ、一路、奈良を目指す動きを見せた。
奈良盆地に入られたら最後、大変なことになる、と諸進は焦った。
諸進が、大声で叫んだ。
「何としても、桂川を越えさせるな」
刺肩別が応えて、秘かに部下に命じた。
「北と南から、次の逆茂木の前に回り込め」
桂川は広いので、水は凍っていなかった。事前に用意していた船で桂川を渡ると、奴国軍に見つからないように、逆茂木の前に身をひそめて川を渡るのを待ち伏せた。
奴国軍が桂川を渡りかけた時、川の東側に隠れていた刺肩別の一群が立ち上がり、連弩を揃えて一斉に連射すると、奴国軍は慌てて西側の山裾に逃げ込んだ。
そこを狙って諸進が、潜んでいた西側の崖の上から大量の岩の塊を投げ落とした。奴国軍はたまらず、鉄剣と鉄盾を投げ捨てて、もと来た峠の方に逃げ出した。
諸進が、声を大にして命じた。
「崖から降りて、後ろから追って矢を射よ」
奴国軍が逆茂木を上る所を後ろから、諸進隊の矢が立て続けに容赦なく射続けた。
「全員、殺せ」
諸進は、弓隊の兵に命じ続けた。
奴国軍の波が引いていった。いつもなら逃げる相手を追うことはないが、二百もの兵が一斉に逃げ出したので追いかけた。関所の所で多くの群れが詰まっていた。逃げ遅れた兵を生け捕りにして、京都の城へ連れて帰った。
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