②狗奴国軍応戦

西暦239年、冬。


 見晴らしが良く水路が多い京都平野では、狗奴国軍の守備力にも、強みはあった。今迄の経験では、川沿いに逆茂木を組み、川を渡って来る奴国軍を逆茂木の中段から狙って、弓で射殺す戦法は有効な筈だった。


 この時、この関所で指揮を執っていたのは将軍の諸進で、副将は刺肩別だった。

 

 諸進は川を見て困惑し、狙撃方法の変更を命じた。

「小畑川の水が凍ってしまっている。これでは簡単に渡られてしまう。こうなったら逆茂木から離れて、逆茂木を上る兵を狙って射よ」


 奴国軍は多くが、右手に鉄剣を左手には鉄の盾を持っていた。諸進が、下から何度矢を射ても、盾に跳ね返されるだけだった。


 刺肩別は、叫んだ。

「弓矢だけでは、役に立ちません。何か他の手を考えないと」


「じゃあ、どうする。他に、どんな手があるのだ?」


「二手に分かれて、挟み撃ちにしましょう。私が東側に回ります。将軍は西側に回り崖に上がって、岩を落とす準備をして下さい」


「分かった」


 狗奴国軍が陣形を崩し隊を分けると、奴国軍は、一気に逆茂木を乗り越えて来た。五十程が一塊と為り、鉄の盾で隠れ蓑を作り集団で進軍を始めた。笛を合図に塊同士が間隔を取り始め、狗奴国軍が撤退しながら弓で射るのを、防ぐようだった。


 峠から下る程奴国軍の隊列は広くなり、狗奴国軍の防御は更に困難になった。奴国軍は平地に出ると、東・東南・南の三方に分かれ、一路奈良を目指す動きを見せた。


 奈良盆地に入られたら最後、大変なことになる、と諸進は焦った。

 

 諸進が、大声で叫んだ。

「何としても、桂川を越えさせるな」

 

 刺肩別が応えて、秘かに部下に命じた。

「北と南から、次の逆茂木の前に回り込め」


 桂川は広いので、水は凍っていなかった。事前に用意していた船で桂川を渡ると、奴国軍に見つからないように逆茂木の前に身をひそめ、川を渡るのを待ち伏せた。


 奴国軍が桂川を渡りかけた時、川の東側に隠れていた刺肩別の一群が立ち上がり、連弩を揃えて一斉に連射すると、奴国軍は慌てて西側の山裾に逃げ込んだ。


 そこを狙って諸進が、潜んでいた西側の崖の上から大量の岩の塊を投げ落とした。奴国軍はたまらず、鉄剣と鉄盾を投げ捨てて、もと来た峠の方に逃げ出した。


 諸進が、声を大にして命じた。

「崖から降りて、後ろから追って矢を射よ」

 奴国軍が逆茂木を上る所を、後ろから諸進隊の矢が立て続けに容赦なく射続けた。         

「全員、殺せ」

 諸進は、弓隊の兵に命じ続けた。


 奴国軍の波が引いていった。いつもなら逃げる相手を追うことはないが、二百もの兵が一斉に逃げ出したので追いかけた。関所の所で多くの群れが詰まっていた。逃げ遅れた兵を生け捕りにして、京都の城へ連れて帰った。

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