第二話 卑弥呼共立 ⑤卑弥呼への密書

西暦237年、夏。


 多芸志彦は邪馬壹国に着き、早々に文官の伊支馬に密書を渡した。


 伊支馬は、密書を読み終えると、多芸志彦に告げた。


「卑弥弓呼様の懸念は、良く解りました。

 卑弥呼様も、助力は惜しまれないと思いますが、今は、伊都国に居られます。

 伊都国の監視があるので、内密で卑弥呼様に相談された上で、不弥国の倭王にも、嘆願された方が宜しいかと考えます」


 多芸志彦は、船で十日掛かって大倭国の首都の伊都国へ向かい、卑弥呼に会った。



 卑弥呼は密書を読み、多芸志彦に言った。


「卑弥弓呼の苦労は良く解ります。私も大倭国の倭女王になるまでは、とても大変な苦労がありました。

 奴国の戦力は侮れません。倭国の乱も奴国の謀反が原因です。気を抜けば何時でも反乱を企てます。不弥国も抑えきれないでしょう。

 倭王とも相談の上、公孫氏に使いを出して、武力の支援を頼みましょう」


 卑弥呼は、倭王に諮った上で、公孫氏の柵封に入り大倭国の安定を得て、大倭国と邪馬台国の大連合を結成する考えだったが、それは邪馬台国の思惑とは違う方向へと転がり始める。


 卑弥呼は多芸志彦を伴って不弥国の王宮へ参内し、倭王の天帯彦に面会を求めた。


「天帯彦様、狗奴国の卑弥弓呼から使者が参りました。近畿奴国が独断で領土の拡張を図っている模様です。

 此の儘では、奴国は大倭国を軽んじて、連合から脱退も辞さないかも知れません。この状況を、見逃すことは出来ません。

 公孫氏の武力支援を受け、機先を制する事が肝要と思われます」


 天帯彦は、卑弥呼の進言を無視するつもりはなかったが、それとは全く別のことを考えていた。即ち、邪馬台国の併呑である。


 伊達に半島で経験を積んだ訳ではない。公孫氏の様子も馬韓と辰韓の現状も全て、十分に知っていた。


 公孫氏に朝貢して援助を受け、上手く立ち回れば形はどうあれ、列島の全ての国の頂点に立つことが出来る。卑弥弓呼と卑弥呼を利用しない手はない、と思い定めた。


「多芸志彦よ、趣旨は判った。余も、近畿奴国をどうにかしなければと思っていた。公孫氏に朝貢して武力の支援を受けよう。急ぎ難升米を派遣して、支援を受けたら、大倭国連合軍を近畿に派遣し、近畿奴国が好き勝手な事をしないようにしよう」


 多芸志彦は、倭王の言質を貰い、帰国の途についた。


 大倭国の倭女王卑弥呼と倭王天帯彦の言葉は、今回与えられた使者の任務に対して満足出来るものだったが、公孫氏から支援を受けるのが大倭国だと云う事と、公孫氏に支援され大倭国連合軍が派遣されるのが何時になるのか、それが気がかりだった。


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