第二章 卑弥呼共立 ④卑弥弓呼即位

西暦237年、春。


 軽の境原宮で、狗奴国王の姫国玖琉(ひめくにくる)が、邪馬台国連合の盟主に、即位した。


 倭人伝では、姫国玖琉は卑弥弓呼と、文官の菊池彦も狗古智卑狗と、卑称された。

伝には載らないが、武官は多芸志彦で、将軍は諸進、副将は刺肩別であった。


 倭人伝は、倭女王卑弥呼は狗奴国男王卑弥弓呼と素より和せず、と書く。

 

 共に姫氏の系統ながらも伊都国と狗奴国に分かれ、大倭国と邪馬台国を代表して、いがみ合う様になった経緯と、お互いの苦悩を、表現しているものであろう。


 即位式を終えると、卑弥弓呼が、狗古智卑呼と多芸志彦を、盟主の宮城に呼んだ。


「近畿奴国が侵略して来ると言うのは、本当なのか?」

 

 卑弥弓呼の質問に、狗古智卑狗が言葉を選びながら、答えた。


「間違いありません。 

 匈奴は秦に負け、家畜を連れずに逃げて来ましたので、生活する術を知りません。普通は、農耕して食料を得ますが、匈奴は農耕が出来ないので、食料がありません。

 食料を得る為には、他国を侵略する以外に、方法が無いのです。

 奴国は、他国を侵略した兵士に、その兵士が奪った物をそのまま与えるそうです。侵略が上手く行けば国を乗っ取ります、完全に攻略できない場合でも連合を組んで、用心棒代を脅し取る輩です。

 侵略される側からすれば、匈奴は侵略自体を楽しんでいる、としか思えません」


「纏向の都にも、やって来るだろうか?」


「必ず、攻めて来ます」


「防ぐ方法を、考えないといけないな」


 これに対しては、多芸志彦が応じた。


「大阪平野と六甲山地や北摂山地の間と、京都平野と丹波高地や比良山地の間には、街道沿いに関所を設け、山陰道には諸進将軍と刺肩別を配しましたので、心配には、及びません」


「何とか敵を防いでくれるといいのだが。

 伊都国は、仲裁してくれないだろうか?」


 狗古智卑狗は、今度も冷ややかに応えた。


「嘗て天氏は福岡の奴国に勝ちましたが、中国地方や近畿の匈奴は勢力が強大です。

近畿奴国を制することが出来るとすれば、半島の公孫氏だけでしょう。

 奴国や不弥国よりも先に、公孫氏に使者を送ったらどうでしょうか?」


「余は、他国を侵略しようとは思わないが、他国に侵略されるのは、絶対に嫌だ。

 しかし、公孫氏に仲介を頼んだら、公孫氏に占領されるかも知れないだろう?

 そうなったら、藪蛇だ。

 列島の連合同士で協議して、何とか侵略を防ぐことは出来ないものか?

 互いに牽制しながらでも、対等な立場で、物を言い合うことは出来ないものか?」


 卑弥弓呼は、将来の倭の国の在り方を模索せざるを得ない、と考え始めていた。


「取り敢えずは、奴国に対して、どう対処するかだな?。

 伊都国の武官は匈奴のセモクとエコクだから、伊都国には相談できないが、倭女王と倭王は助けてくれるかも知れない。

 何とか秘かに、使者を送れないものか?」


 それに対し、即座に多芸志彦が名乗り出た。


「私が使者として邪馬壹国と不弥国へ行き、必ず支援を取り付けてきます。

 それ迄何とか、保てば良いのですが?」


 その後で、狗古智卑狗は、今度も冷静に申し上げた。


「今迄も作物は天気次第で、飢饉になれば他国の蓄えを奪い、それでも足りない時は他国の領土を奪うのが当然でした。そして、仮に統一出来ても、臣下に下克上され、元の木阿弥になるのが落でした。やはり、覇道には無理があります。

 これからは、連合や統一などの今迄と同じ方法では、無理なのかも知れません。

 例えば互いに、助け合うとか、食料を融通するとか、人質を交換するとか、共通の律令を作るとか、或いは互いの兵を混ぜて列島内の全ての国の軍隊を編成するとか?

 戦争を止めるのは、列島内の全ての国が対等な、連邦しか無いと思われます」


「そうか、連邦と言う言葉は初めて聞いた。じっくり調べる価値がありそうだな!」


 その翌日早朝、多芸志彦は密書を持って、邪馬壹国と不弥国へ向けて出発した。

 




 


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