保健室
「失礼します……ぐすっ……」
「あら吉彦くん、また転んで怪我しちゃったの?」
「ずびっ……。佐藤先生こんにちは……」
「うんうん、挨拶できて偉いわよ。あぁ、額から血が出ちゃってるわね。それじゃあ傷口をよく見せて」
「……。怪我してない」
「怪我してないわけないでしょ、わざわざ保健室にまで来ておいて。私がきちんと治してあげるから」
「だって田中先生が行けって言うから……。3分前に転んで擦りむいたけど、もう治った」
「だとしたら恐るべき修復機能ね。でもそんなわけがない証拠に、額からの出血は依然継続中よ」
「これは血じゃなくて、その……絵の具」
「額から絵の具が湧き出てるなんてそれこそ何らかの奇病よ。普通の病院では手に負えないわ」
「じゃあケチャップ。もしくはグレイビーソース。さもなくばキムチ鍋の素。おでこから出るタイプの」
「だんだん嘘のつき方がえげつなくなってるわね。いっそ勇猛果敢と称えるべきなのかもしれないわ。でも実際には痛いでしょう?」
「いいい痛くなんかないやい、熱いような苦しいような不快な感覚に打ちひしがれてるだけだい」
「やっぱり痛いんじゃない。発言する度に吉彦くんの思惑から逆行の一途を辿ってるわよ」
「とにかく僕は平気だから。このくらい何とも感じない精神的堅牢さを有した大和男子だから」
「無茶苦茶に落涙かましながら入って来たくせに強がらないの。うんうん、傷口はちゃんと洗ってあるわね。じゃあ絆創膏貼りましょうか」
「…………」
「あ、近くに寄ってきたからドキっとしちゃった? でもこうしないと貼れないからね」
「佐藤先生、好きです」
「うんうん。……え?」
「…………」
「……。えっと……」
「…………」
「…………あー。……うん。そう、なの。ありがとう……」
「僕と付き合ってください」
「…………えーっとねぇ……。急にそんなこと言われると困っちゃうわ。ほら、吉彦くんと私、結構歳も離れてるし、こういう関係だし。付き合うとかはちょっとマズいかなって……」
「そっか……。佐藤先生って僕に気さくに話してくれるし、もしかしたらって思ったんだけど」
「ほら私、誰にでもこの感じで喋っちゃうから」
「そうだね……」
「期待させちゃってごめんね」
「…………」
「と、とにかく、絆創膏も貼ったし、怪我の方はこれでもう大丈夫よ」
「…………うん………………」
「来た時と帰る時でテンションの落差とめどなくさせちゃってごめんね。あー。そっかそっか、私の前で格好つけるために、これまで必死に痛みを我慢して強がってたのね。ふふ、可愛いところあるじゃない。私もその気持ちは嬉しいわ」
「うん……。まぁ、気持ちを伝えられてよかったかな。聞いてくれてありがとう。じゃあ僕帰るね。バイバイ、佐藤先生」
「色んな意味で、次からは気をつけるのよ。奥さんには黙っておくから。バイバイ、校長先生」
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