8「勇者のリベンジ」
20回目の転生。幼馴染みの少女、パーリア。
エルナはその転生だった。
「転生ってことは、パーリアはやっぱり……」
「聞きたいですか? あの世界の、その後の話を」
「……! い、いいのか? 教えてくれるのか?」
「今回は特別です。魔王を倒した褒美と思ってください」
「それは……ありがたく、もらおうかな」
教えてくれると言っているのだ。素直に聞こう。
女神は玉座の上から降り立ち、僕の目の前にやってきた。
「魔王となったパーリアは、あなたが命がけで持たせた魔力制御の宝珠により、魔力が抑えられ――僅かに正気を取り戻します」
「わずかに……」
「長いこと暴走していましたから……。そして、自分を救おうとしてくれた幼馴染みのラックを殺めてしまったことで、彼女は絶望します」
「あぁっ……! 僕が、死ななければ……パーリア……」
「魔力の放出を抑えることができた彼女は、人の居ない場所に逃げ込みます。――ですが結局は冒険者に見つかり、抵抗することなく殺されました」
「そん、な……!」
僕はその場で崩れ落ちる。
あの世界で、僕は――魔王を倒そうとも、世界を救おうとも考えず、ただパーリアを助けることだけを考えて戦った。だけど、それは叶わなかったのだ。
わかっていた。決して幸せな終わり方などなかったと。それでも、少しでも、救われて欲しかった。
「顔を上げなさい、ラック。――彼女は、最後の理性で自分の中にある魔力をすべて天に放ちました。そうしなければ世界は滅んでいたでしょう。……救ったのです。あなたの創った魔力制御の宝珠。そして、彼女の意志が」
「…………」
「あなたの想う通りです。決して幸せな結末ではありません。ですが、彼女は止まることができた。パーリアは、人として死ぬことができたのです。それは紛れもなく、あなたのおかげでしょう」
「そう、なのかな……」
「そうですよ。そこは自信を持ちなさい。ラック」
「……はい」
そうだな。僕がそう思わなきゃ、パーリアの強い意志が無駄になる。
僕が止めて、彼女は世界を救った。それで、いいんだ。
だけどどうしても、胸の奥が苦しい。やるせない感情でいっぱいになる。
この痛みは忘れたくない。忘れない。
「転生の女神、最後にもう一つ聞きたい。エルナの過酷な人生って……例のボーナスとは関係ないんだよな? 辿ってきたものは違うけど、結果が似ている。魔物の魔力を溜め込むなんて……」
「申し訳ありませんが、まったく関係ないとは言い切れません。そうですね、私のボーナスと、魔王に近しい存在の力が合わさってしまった結果、でしょう」
「合わさった……あ、そうか。パーリアも、魔王という認識だから?」
「呼び寄せた魔王の中にパーリアもいたはずです。エルナが邪龍の呪いにより魔物の魔力を得てしまったのは、その影響が強いのでしょうね」
女神がパーリアを転生させると同時に、そいつもパーリアを呼び寄せていた。
その結果――エルナは過酷な人生を歩むことになる。
「……そいつ、本当になんなんだ。この世界にいるんだよな?」
「はい。それは間違いありません。魔王を集めるだけでなく、私の力を阻み、これだけの干渉をしているのです。世界の内側、つまり世界のどこかにいます」
そうか、いるんだな。
僕は安心した。女神のように、世界のどこにもいない超越した存在ならば、手を出せないところだった。
(そいつは、そいつだけは、絶対に許さない。待ってろ、必ず見つけ出して倒してやる)
強く拳を握る。僕の中に、新たな炎が灯るのを感じた。
「ラック。先ほども言った通り、これまでの魔王39体、そしてそれを呼び寄せた魔王に近しい存在――真なる魔王とでも呼びましょうか。併せて40体の魔王がいるのです」
「……はい」
「パーリアはエルナとして転生、ミマスは倒しました。残り38体、そのすべてを――」
「わかってる。全部、倒すよ。真なる魔王ってやつは絶対だけど、残りの魔王にも――リベンジしてやる!!」
「……その意気です。頼みましたよ、ラック」
女神の放つエメラルドグリーンの光が強くなり、周囲を完全に包んでいく。
どうやらこの時間も終わりらしい。
「あ、そうだ。もう一つ聞きたいことがあった。エルナ、やたら僕を働かせようとするんだけど、なんで? 女神が用意した休息のためのボーナスなんだよね?」
「そのことですか――。実は私も不思議なのです。どうして彼女はラックをそこまで働かせるのか。よくわかりません」
「女神でもわからないのか」
「本当は彼女と共に、仲睦まじく暮らして欲しかったのですが。上手くいきませんね」
「仲睦まじくって……」
なにを言い出すんだ、女神。
「ふふっ、ラック。私の与えたボーナス、不服ですか?」
「……いいや、そんなわけない。最高だ。ありがとう。とても、感謝しているよ」
もう一度、彼女と共に居られる。守ることができる。
今度こそ失わない。これも――あの時の、リベンジだ。
「それでこそ、私の見込んだ冒険者。勇者、ラックです――」
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