脳が見せる

認知症は更に進む

・電気を付けたり消したりがわからない

・字は読めるけど意味を理解できない

・失語も増えてきた

・トイレの失敗回数が増えてきた

それでも、

「いつもありがとう」

「なにからなにまで、すみません」

という言葉を、家族にも施設スタッフにも欠かさない富士子ちゃんだった。


「今日はデイサービスだね」

と言うと、すぐ階段を降りてくる。

「まだ時間じゃないよ。お迎えが来たら言うから、お部屋で待っててね」

と部屋に戻しても、一分もしないうちに、また降りてくる。何度言っても秒で忘れる。でも、デイサービスに行くのはわかってるのかな?面白いと麻衣は感心していた。

デイサービスだよと教えると、送迎が来るまでに階段を十往復くらいしちゃうもんだから、血圧上がっちゃう。

楽しみになっているなら良いかと思うけれど、血圧高いと、お迎え要請連絡来ちゃうから困るところ。


 【何がどう見えてるの?】

デイサービスから帰宅して一時間後

「ねぇ、麻衣ちゃん。みんなどこかしら?いっぱい連れてきたハズなんだけど・・・」

と階段を降りてきた富士子ちゃんは、落ち着きなく歩き回っている。

「誰も連れてきてないよ?」

と部屋へ戻し

「お相撲やってるよー」

とTVを付けてお茶を出しておいた。

十分後、

「ねぇ、いっぱい連れてきたのに、みんなどこへ行ったの?」

とまた降りてきた。

「誰もいないよー」

と返すと

「いたわよ!みんな一緒に来たもの!」

と怒り出した。珍しく同じことを繰り返し言ってるなーと、脳内で何が起きてるのか?不思議だ。

でも、認知症の人にとっては、それは嘘でもなんでもない。脳がそう理解しているのだから、それが事実。

食べたものを食べてないとか、言ったこと言ってないとか、聞いたこと聞いてないとか、それらは認知症の人にとっては事実でしかない。

だから、こうやって怒り出したら

「あー、さっきいっぱい来た人達のこと?」

と話を合わす。

「そうよ!みんなどこ行ったの?」

「みんなね、夕方になったから帰ったよー。富士子ちゃんによろしくだってー」

この時点で、さっき麻衣に否定されたことは忘れてるので、会話の修正は簡単。

「ええ?帰っちゃったの?そう、なら良かったわ」

と納得した様子で部屋へ戻っていった。

たまに、脳内の回線がちゃんと繋がる時もある。それでも、一部の回線が繋がってるような状態が多く、会話は成り立つけど、内容はおかしい。


やれやれと思いながら、夕飯を部屋へ運ぶと

TVの相撲を見ながら

「これ、女の人がいないのよね」

と言う

「まぁ、お相撲だしね。女の人が裸でやる訳にはいかないしねー」

と笑いながらテーブルにお皿を並べる。

「これ、私に出来ないかしら?」

と顔を赤くしながら言うから

「え?これ?お相撲やりたいの?」

と富士子ちゃんの顔を覗き込む

「ええ。そうなの」

と顔を真っ赤にして、手で顔を押さえながら恥ずかしそうに言うから驚いた。

んん?これはどういうことだ?

TVをチラッとみちゃ、手で胸を押さえて顔を赤らめて、麻衣と目が合うと照れくさそうに?恥ずかしそうに?笑う。


んんんん?どうゆうこと?と麻衣はリアクションに困る。


TVでは、はっけよーいのこった!と、体をぶつけ合う。その瞬間

「ほら・・・ぁあ!すごいわねー」

と、真っ赤な顔でニヤニヤしながら少し興奮気味な様子。


あ!もしかして!そうか!アダルト的なものを見ている感じなのかも。

もう、どうしてこうネタが尽きないのか!と思うほど、認知症は面白い。麻衣は、笑いを堪えようとすればするほどニヤニヤが止まらない。

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