行くの?逝くの?
【階段が欲しい】
麻衣は友達に電話で
「富士子ちゃんを置いてランチに行くのは不安なんだよね~。行っても気になって楽しめないと思うの。だから、今回はパスする~。ごめんね、また誘って。パパの休みと合えば行けると思うから」
とランチを断ったら、
「じゃぁさ、うちらが麻衣んちに行くのはどう?お喋りがメインだし、食べ物は適当に持ってけばいいし」
と、お菓子やお茶を持ってママ友の由莉と陽葵が遊びに来てくれた。
リビングで、お菓子を食べながら、どうでもいい話で笑っていたら
スーーッと階段の手すりをすべらす音が聞こえた。
「麻衣ちゃん?」
富士子ちゃんが降りてきた。
「富士子ちゃん。どした?お茶飲む?」
と階段の方を向くと、なんだかモジモジしながら立っている。
「こんにちはー。お邪魔してまーす」
と由莉と陽葵が挨拶すると
「こんにちは。どうぞ、なんのお構いも出来ませんけど、ごゆっくりしていってね」
と、お品良くニコリと返す富士子ちゃん。
「で、どした?」
ともう一回聞くと
「あの、あのね・・・。ええっと・・・ほら」
この頃は言葉が上手く出てこなくなっていて、モゴモゴしながら必死で言葉を探している様子。
焦らせないように相槌を打ちながら富士子ちゃんのとこまでと行くと
「これ、これよ」
と階段をポンポンと叩く。
ママ友も麻衣も「ん?」という顔になる。
麻衣は階段まで行き
「階段がどうしたの?」
と聞いてみると
「そうなの。ここの階段をね、ひとつ欲しいのよ」
んんん?と、目を丸くする麻衣。
「階段欲しいの?でもこれ、外せないよ」
と、話しながら一緒に階段をのぼると
「そうかしら?そんなことないわよ」
と、少し不機嫌な様子。
「階段をどこに置くの?」
と聞いてみると、
「ほら、ここよ!ここに置くの」
と、階段の踊り場を指さして言う。
「んーーと、ここに置いてどうするの?」
どうやって、この会話を着地させようか考えながら、話を進める麻衣。
「ほら、うちは階段ここまでしかないでしょう?」
と二階まで上がったところで言う。
「うん、そうねぇ」
まぁ、二階建てですから・・・と思いながら聞いてると
「ここに置けば、ほら!この上に行けるじゃない?まぁ、子ども達は危ないから連れて行けないけどね」
と、家系図の時と同じように超ドヤ顔。
「あーなるほどね~。じゃぁ、外せるかやってみるね。外せたら、声掛けるから、それまでお茶でも飲んで待ってて」
と富士子ちゃんを部屋へ戻し、お茶を淹れて
茶菓子を渡したら、素直に
「そうね、じゃぁお願いするわ」
とテレビを見始めたので、麻衣はリビングへ戻った。
「どしたの?階段がなんだって?」
と、由莉と陽葵が興味津々に聞いてくるので麻衣は吹き出してしまった。
「階段ひとつ上に持っていけば、『この上に行けるじゃない?』って、それって【逝く】の間違いじゃない?字が違うやつね」
天井を指さしながら説明し、笑いが込み上げてくる。
「『子供たちは危ないから連れて行けないけどね』ってー、うん、連れて逝かないでーだよねー。もう超ウケるんだけどー」
と階段が欲しいと言ったところから、富士子ちゃんのモノマネしながら説明し大笑い。
本人は大真面目なんだろうけど、面白すぎる。
由莉と陽葵は、一緒に笑い飛ばしてくれるから麻衣はずいぶん救われている。
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