商品化

 認知症と診断されて一年が経った。

この頃は、言った事も言われた事も、秒で忘れていった。


【商品化】

麻衣がリビングのテーブルで餃子作りしていると、富士子ちゃんが二階から降りてきた。

「ふーじこちゃん!どした?」

と声を掛ける

「・・・・」

こちらをじーっと見て無言で立っている。

「んーと、どした?」

と、もう一度声を掛けてみると

「麻衣ちゃん、あのね・・・商品化しようと思って」

と言う富士子ちゃん。

「ん?商品化?何を?」

と更に聞くと

「我が家の家系図をね、商品化しようと思うのよ」

凄いドヤ顔で言ってるから面白い。

「んーーー、うちの家系図なんて商品化しても売れないと思うけど?」

と返したら

「そうかしら?そんなことないわよ。やってみなくちゃわからないでしょ?」

あ、ちょっと怒らせてしまったようだ。

いったい、どこから【商品化】という発想に至ったのかわからないけど、

「そうね!やってみないとわからないよね?うん、やってみよう!」

と話に乗ってみると

「そうでしょう?そうなのよ」

と、ご機嫌が直ったようだ。そしてそのまま二階の自室へ戻っていった。

「家系図はいいの?もう話は終わり?」

餃子を包みながら、一人ボソッとつっこむ。


 色々すぐ忘れちゃうからか、ウロウロと歩き回る事が増えてきた。昼夜問わず、家の中の徘徊。一階には麻衣の父の部屋があるから、それも心配。

「どうしたのー?もう真っ暗だから寝ようね」

と声を掛けては部屋に戻してベッドに寝かす。の繰り返し。常に耳の神経に全集中していた。おかげで麻衣は寝不足な日々が続く。

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