認知症スキル

 認知症と診断されたはいいが、何も情報がなく手探りで始まった介護。

認知症初期の頃は割と会話は成り立った。というか、『忘れる・覚えられない』ということを知られたくないという保身からか、

【合わせスキル】が発動した。


例えば

「自治会長は、加藤さんに決まったらしいね」

と話しかけると

「そうなのよ」

とニコニコ返事する。自治会の事は全く関与してないはずのに。

ポイントは

『そうらしいわね』と合わせるのではなく

『そうなのよ』と【知っている】とアピールする。

富士子ちゃんは、自治会の集まりや老人会みたいなものが大嫌い。自治会は私に丸投げ。老人会の誘いは断固として拒否。だからデイサービスとか行けるのか不安だった。


 デイサービス初日

ピンポーンとインターホンが鳴り、玄関を開けると、細身で肩までのウェーブヘアの女性が立っていた。

「おはようございます~。お迎えに上がりました~。」

高齢者相手だからだろうか、大きな声が玄関に響いた。

「おはようございます。楽しみにしていたんですよ~」

ニコニコと話す富士子ちゃん。

「あらー嬉しい。さぁ、お靴をお履きになって」

と靴を履かせてもらい、あっという間に車に乗り込んで行ってしまった。

「なんだ、全然問題なかったね~。良かった良かった。これならデイに通えそうだね」

と、啓介と麻衣は胸をなでおろした・・・

が、次のデイサービスの日になると

「もうあそこへは行かないわ」

と、富士子ちゃんは顔をしかめる。

仕方ない、合わせスキル発動させよう。

「あれ?でも今日は仲良しのお友達に会うって言ってたよねー?」

と適当に話を作って返すと

「・・・そうなのよ」

とニコニコしながら玄関で靴を履くのだ。


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