きのこたけのこ論争

 天根家は一週間に一回、隣町のスーパーマーケットへ買い出しに行く。お財布を握るは、有栖。


「有栖、ミョウガ食べたい。」

「入れておけ。」

「有栖、キムチ食べたい。」

「入れておけ。すっぱいの食べないんだから小さいのにしておけよ。」

 基本、璃杏が食べたいものならなんでも買えばいいと思う。なんなら売り場で一番高いのにしてもいい。

 ただ、これだけは譲れない。

「有栖、お菓子買う。」

「500円までな。」

 そう、一度に買うお菓子は500円まで。


 お菓子なんて俺が作る、と言ったがどうやらそういうことではないらしい。しかし、俺は璃杏に手作りのクッキーやらを食べさせたい。昨日だってプリンを喜んでくれたじゃないか。

 複雑な心境で、お菓子を選ぶ璃杏を見つめる。

「きのこ?たけのこ?」

 ぱっと後ろを振り向いた。揺れる髪が可愛い。

「ここは野菜コーナーではない。それにきのこ好きじゃないだろ。」

「違う違う。これ。」

 *きのこの山*たけのこの里*


「へえ。微妙に食感が違うのか。」

 パッケージを手に取り、まじまじと見つめる成人男性。キッズが溢れるお菓子売り場では異質だった。それを全く気にできない少女も一人。

「食べたことないならどっちも買お。」

 ぽいぽいかごへ放り込む。有栖がしゅんとしたのを感じた。


 帰り道、夕日を浴びながら有栖のご機嫌を直すことにした。

「既製品のお菓子も好きだけど、有栖のも好きだよ。」

「そうか。」

 簡単だな、この人。ちょっと嬉しそう。

「明日のおやつ、よくあるJKケーキやろって言ってくれたじゃん?それ用に買ったの。流石にスポンジから焼いて、有栖大変かなと思って。」

 茨、白雪さんにも召集がかかっている。トッピングは二人の担当だが、楽しみすぎて私も買いたくなってしまった。

「いつも美味しいの作ってくれてありがと。」

 満面の笑みで感謝を伝える。

 有栖は目頭を押さえた。

「憂い…。」

「何?なんて言ったの?」


 二人の日常はまだ続く。

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