お金事情

「相談があります。」

 正座で座る璃杏を上から見下ろす。とりあえず同じように座ることにした。

「なんだ。」

「有栖が来てから、全部お金払ってくれてるでしょ。私家賃と光熱費とプライベート分しか払ってない。」

 腕を組み、ちょっと怒り顔だ。スイッチが入った。

「なんの問題がある。璃杏に全財産をつぎ込むことが俺の幸せだ。文句をいうな。」

 大きめの声で、宣言。

「はい?」


 ツボに入ってしまった璃杏は腹を抱え、ばふばふクッションを叩く。

「働いてないのに、つぎ込むお金ないでしょ。私ヒモになっちゃうじゃん!」

「貯金が〇億ある。」

 白雪のような仕事をしていた時期も数百年あった。つかの間の静寂。再び意味の分からない笑い声が響いた。

「もうやだ!なんでこんなお金持ってる人いるの!生涯年収考えてよ!」


 璃杏は知らない。

 彼女の母親は水商売で一発当ててしまった。が、質素な生活を好んでいた為、結婚を期に引退する際、金目のものはすべて売り遺産にしていた。結果、同じく質素な生活の方が好みの娘では使いきれない遺産が残る。かなり娘の生活を助けていたが、それは互いに知る由もない。


「人間の生涯年収を吸血鬼にあてはめたらこんなものだろう。いいから早くアルバイトをやめろ。一緒にいる時間が無くなる。」

 牛丼チェーン店のバイト先へ今すぐ電話を掛けようとスマートフォンを手にとる。

「有栖が行くなって言ってシフト埋められなかったらクビにされたよ。」

 ふてくされている。気に入っていたのか。

「その店長を出せ。俺が…」

「そうじゃない!」

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