猫ちゃん以外どうでもいいんです!(3)
*
アンドリューが粘ってきたせいで、ここまでいつもよりも時間がかかってしまった気がする。
ソマリは駆け足で自宅へと向かっていた。
(修道院でたくさんの猫ちゃんとモフモフまみれの人生を送るためには、やっぱりある程度お金がないといけないのよね……)
婚約破棄の旨が家の者に知られてしまえば、貴金属は没収され着の身着のままで修道院に入れられてしまう。
しかしそれを理解した後の人生では、指輪やネックレスなどを隠し持ち、それを現金に換えて猫用品に投資ができた。
よって、城からの伝令の前に自宅に到着して、貴重品をできるだけ多く隠し持っておかなければならない。
息せきかけて自宅へと走るソマリだったが。
茂みの中から小さな物体が出てきた。思わずソマリは足と止め、その物体を注意深く見てしまう。
猫に心を奪われてからというもの、道端で蠢く小さな物をつい注視してしまうようになってしまった。
猫好きたるもの、不意打ちでの猫との遭遇はこの上ない幸せ。その機会を逃すことなどあってはならないのだ。
そして突然現れた小さき物体は、ソマリの期待通りの生物だった。
「やっぱり! 猫ちゃんっ」
弾んだ声を上げてしまうソマリ。
綺麗な茶トラ柄のとてもかわいい猫だった。人懐っこい性格らしく、ソマリの足元にすり寄って来る。
何よりも猫を愛しているソマリは、急がなければいけない自身の状況も忘れ、身をかがめて猫を撫でてしまう。
(だけど、どうしてこんなところに猫が?)
この辺りはフレーメン王国内の貴族の居住区である。猫が本来いるはずのない場所なのだ。
なぜなら、古来よりフレーメン王国やサイベリアン王国が位置するアビシニアン地方では、猫は悪魔の使いだとされているためである。
貴族の居住区に決して入れてはいけない害獣であり、発見され次第駆除されてしまう。
庶民の居住区ではそれほど厳しい制限はないが、一応猫が悪魔の使いという伝承は根付いているため、その数は少ないらしい。
また、これも猫に心酔してから知った話だが、それでも猫のかわいさに魅了されて隠れて飼育している者はかなりいるそうだ。
実はソマリも、一度目の人生で婚約破棄をされるまでは猫を見たことが無かった。修道院に迷い込んできたのを見かけたのが初めてだった。
場末の修道院で、心の広いシスターが取りまとめていたせいか、悪魔の使いと言わしめられている猫に対して寛容だったのだ。
生まれて初めて猫を見た瞬間、ソマリの全身に電撃が走った。
一体何なんだ、このかわいすぎる生き物は。
神が苦心して作り上げたと思えるくらい、造形は美しくかわいいし、仕草にも鳴き声にも足の裏の形にさえも、脳を揺さぶるほどの甘美な衝撃を与えらえた。
それから何回かの人生を経て、どうやらどうあがいたところで二十歳で自分は命を落とすのだと悟ったソマリ。
十回目の人生以降は、修道院で猫と暮らすことを楽しみに生きているのだった。
「ああかわいい~。お腹まで見せてくれるなんてっ! なんてかわいい猫ちゃんなのっ」
足元でゴロンゴロンしながら喉を鳴らす猫と、しばらくの間ソマリはつい戯れてしまった。
しかし「そういえば急いでいるんだったわ」と我に返り、立ち上がる。
その時猫が「にゃーん」と鳴いた。
この猫は、このままこの区域にいたらそのうち処分されてしまうだろう。
(そんなの放っておけるわけがない。よし、この猫ちゃんも連れて行きましょう)
素早くそう決断したソマリは、猫を抱えて自宅へと駆けだした。
猫は暴れもせずに、おとなしくソマリに抱えられていた。
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