猫ちゃん以外どうでもいいんです!(2)
(まあ、どうでもいいけれど)
今までの二十一回の人生では、彼に直接関わったことがない。今回もその例に漏れないだろう。
二十歳になったソマリは、修道女として暮らしていた修道院にて、サイベリアンとフレーメンとの戦争に巻き込まれて、毎回命を落とす。
死を避けようと、十回目の人生くらいまではいろいろ奮闘した。しかし。
サイベリアンの弓兵が放った流れ弾に当たったり、戦による飢饉が起こり餓死したりなど、死に方すらいろいろあったが、結局戦に関わることで死ぬのは変えられなかった。
そう、過去二十一回の人生は、どう抗っても二十歳で死ぬという運命をソマリは辿っていたのだ。
だからもうソマリは諦めていた。どうせどう足搔いたところで、自分は二十歳で命を落とす。
そしてその度に十五歳の婚約破棄される瞬間に戻される。
戦自体が起きなければひょっとしたら死を回避できるかもしれないが、そんな国同士の大きな出来事を、女ひとりが奮闘したところでどうにかできるわけもない。
(だからもう私は諦めた。代わりに、十五歳の今から二十歳で死ぬまでのあと五年間、無駄なあがきはやめて、猫ちゃんに囲まれて楽しく幸せに暮らすことに決めたのよっ!)
「ま、待て! だからなぜそんなあっさり!? ソマリ、俺はお前を宝物庫からの窃盗の罪を問うているのだぞっ?」
「ええ、そうみたいですね」
「まさか! お前見に覚えがあるのか!?」
(身に覚えがあるのか、ですって? 証拠は挙がっているんだぞと、偉そうにふんぞり返っていたばかりじゃないの)
こんな言い方、「お前の罪をでっちあげているんだけど反論はないのか?」と告げているようなものではないか。
頭が悪すぎる。
(あーあ。なんでこんな人との結婚に浮かれていたんだろう、私)
一回目の人生の自分があまりにも情けなく思えてくる。
周囲の者も、王太子の今の言動には違和感を覚えているだろうが、立場上彼に意見できる者はいないので、誰も言葉は発さない。
「だからそうですってば。承知しましたと答えているではありませんか。何か問題でも?」
イライラしてきたソマリは、思わず早口で言ってしまう。もうこのやり取りも二十二回目だから、無理もない。
「えっ……。いや、その、問題はないが。し、しかしお前は俺のことを愛していなかったのか!?」
別の令嬢にぞっこんのアンドリューにとっては、ソマリが素直に罪を認めてくれたことは好都合には間違いない。
脳みその量が少ないと思われる彼とてそれは理解しているらしいが、それでも食い下がって来るのは、あっさりとソマリが自分の元を去るなど、彼のプライドが許さないからだろう。
(だけど今回はいつにも増してやたらとしつこいわね……。私もつい苛立ってしまって、今までで一番つっけんどんな口調になってしまったからかも)
この人を愛していた時なんて、ソマリには一度も無かったというのに。
一回目の人生の時だって、結婚を喜びはしたもののアンドリューを慕っていたわけではない。
次期王妃として頑張るぞ!と意気込んでいたところの婚約破棄だったから、意気消沈してしまっただけである。
「ええ。まったく。かけらも愛してございません」
満面の笑みを浮かべてソマリが告げると、アンドリューは呆然とした面持ちになり、何も言葉を発さない。
周囲からは微かに笑い声が聞こえてきた。
意気揚々と婚約破棄を告げた王太子がしてやられている姿が、あまりに滑稽だったからだろう。
「では御機嫌よう」
アンドリューが呆けている今が、立ち去る最大のチャンスだ。
ソマリはドレスの裾を翻し、王太子に背を向けて舞踏会の会場を後にした。
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