第7話 ウサギの次は……?
虫だ。
いや、人の背丈ほどもあるカマキリを、虫といっていいのかは分からない。
全体が灰色に近い黒で、頭には太い触覚が二本あり、頭頂部からは突起が飛び出ている。
両前足の鎌は非常に長く、先端は剣のように鋭い。
獲物を捕らえるためのものではなく、明らかに敵を切り裂いて殺すためのものだ。
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「こいつがアラートⅠだって?」
大きさがウサギの3倍はある上に、全身鎧のような外骨格に覆われていて、随分強そうに見えるのにウサギと同じアラートI。
判定の基準がよく分からないが、考えるのはとりあえず後だ。
カマキリはゆらゆらと体を揺らしながら近づいてくる。
鎌の長さから見て、あと数歩で確実に射程内だ。
「できれば、それ以上は……って無理か」
漣はバスターガンを抜き、どうあっても襲ってきそうなカマキリの頭を狙って引き金を引いた。
ガキィン。
金属同士がぶつかるような、鋭い音が響く。
「な、弾いた!?」
カマキリの額にはヒビらしき傷がついているが、光弾はその鎧のような外骨格を貫通できなかった。
硬さだけではなく、光弾の当たる角度が浅すぎたようだ。
カマキリは額の傷など気にもかけず、両前脚の鎌を振り下ろす。
「おっと」
漣は左に飛んで鎌を躱し、目の高さに両手でバスターガンを構えた。
今度の狙いは胸部。これなら、外骨格に対してほぼ直角の射撃になる。
グオォン、グオォン!
2発めで胸部の外骨格が崩れた。
グオォン、グオォン!
更に2発。内側の肉を抉り、背中側の外骨格を突き破る。
だが、それでもカマキリは倒れず漣を狙う。
見た目通り、生命力の強さは地球の昆虫並みだ。
グオォン!
5発目がとどめとなり、カマキリの胴体は胸部から真っ二つに千切れ、ようやく倒れて動かなくなった。
「5発か……」
バスターガンのフレーム左にあるゲージが、エネルギーチャージ中を示す赤い光で点滅する。
約2秒後。発射可能な緑の光に変わった。
細かい設定は漣も覚えてはいないが、簡単にいえばこのバスターガンは、ほぼ無尽蔵に光弾を撃てるものの、6発毎にエネルギーを充填させる必要がある。
そのエネルギーの充填から、次弾の発射可能までの時間が約2秒。
ほんの2秒だが、ウサギのように群れで現れたとしたらどうなるだろう。
「ちょっと不味いよなぁ……」
そう思いつつも、銃の性能が決まっている以上、それを踏まえた戦い方をするしかない。
ただ、漣の心配をよそに、その後もカマキリは単独でしか襲ってこなかった。
それにカマキリは鎌の動きこそ早く鋭いが、移動や反応はそれほど早くはなく、鎌の攻撃自体も身体の構造上ほぼ縦方向にしか動かないから、避けるのは案外難しくはない。
常に群れで攻撃してくるウサギより、油断さえしなければ戦い易いというのがアラートIの理由だろう。
そんなことを繰り返しながら更に一時間ほど歩いたときには、ウサギ28羽、カマキリを5匹倒してレベルが一つ上がった。
特変[特撮変身ヒーロー] レベル3
レベル2➡3
基礎能力
攻撃力:10➡15[×11]
体力:7➡13[×11]
俊敏:15➡20[×11]
守備:10➡16[×11]
【亜空間収納に装備庫が開放されました】
サヴァイブダガーが使用可能
フォトングレネードが使用可能。
昆虫型偵察機ドローンビートルが使用可能。
【亜空間収納にメビウス特典:パントリーが解放されました】
数値の上がり方はよく分からないが、アサルトライフルとグレネードが使えるようになったのは有難い。
ウサギはバスターガンの一発で仕留められたものの、カマキリは同じアラートIにもかかわらず、5、6発撃ち込む必要がある。
この先もしもアラートII以上に出くわした場合、バスターガンだけでは心許ないと思っていたので丁度良かった。
もちろん、できればそんなヤツには出会いたくないところだが。
サヴァイブダガーを取り出して、ベルトの左腰に装着しておく。これならいざという時、右手でも左手でも抜ける。
コミュロケーターは、ボッチ状態の今は使う機会もない。
気を惹かれるのはメビウス特典の【パントリー】だ。
確かめてみると、塩や醤油や味噌を筆頭に、おおよそ現在の日本で手に入る調味料のほとんどが揃っている。
「メビウス少年の言ってた文化ってこれかっ」
漣は思わずガッツポーズをした。
この世界の食材や料理がどんなものかまだ分からないが、高校を卒業して田舎から東京に出てきたとき、食べ物の味付けの違いになかなか馴染むことができなかったのを覚えている。
随分慣れた今でも、味噌と醤油だけは田舎から送ってもらっているくらいだから、これは本当にありがたい。
また、調理器具もいろいろと取り揃えてあるようだ。
さらに、嬉しい機能がもう一つ。
肉や魚の急速熟成機能だ。
時間経過の無い亜空間収納とは真逆で、これは時間経過が速いようだ。具体的には1日を1時間、つまり3日の熟成が必要な物なら、僅か3時間ですむということだ。
漣は早速、解体したウサギの肉をパントリーに移した。
「あ、そうだ……」
ステータスを閉じて空を見上げ、ドローンビートルを放つ。
空からなら森の全体を見渡せるだろうし、どの方向に進めば出口に近いかも分かるだろう。
カメラをONにすると、網膜に映し出された映像が目の前に広がる。
上空200mでホバリングさせ、ゆっくりと地上を見渡す。
日の傾いた方向の反対側に、それほど標高の高くない山々が連なり、森はその裾野から続いている。
現在位置はその山地から近い場所で、残念ながらドローンの捉える映像の中に、森の終わりは見えなかった。
「どれだけ広いんだよ……」
今日中に森を抜けられないことが分かり、漣はがっくりと肩を落とした。
キャンプの経験はあるし嫌いではないが、何が出るかも分からない異世界の森で、しかもたった一人での野宿はあまり気が進まない。
重い気分になりながらドローンを回収しようとしたとき、映像の隅にキラキラと輝く光のを見つけた。
「湖、かな……」
けっして大きくはなさそうだが、水が手に入るだけでも今は好材料といえる。
距離はここからおよそ5kmほどだ。
しかも今の位置からは、山地から遠ざかる場所にある。
漣は方向を見失わないようドローンを先行させ、湖を目指して歩き出した。
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