第5話 「特変」って何?
くっきりと視界に浮かぶのは、PCのウィンドウみたいな画面。
「何だ、これ……?」
目の前に手を出して動かしてみるが、画面は常にその手よりも手前にある。
画面先の景色も手も透けてみえているということは、これもアラート表示と同じように網膜に直接映し出されているらしい。
だが、こんな能力はグランゼイトの設定にはなかったはずだ。
「ゲームとかのステータス画面みたいだな……」
以前に読んだ小説にも、こんな感じでステータスが見えるものがあったのを覚えている。
人の能力や体力を数値化する世界、という認識でいいのだろうか。
どういう理屈かは分からないが、転生が現実に起こったということは、それもあり得なくはない。
ただし、メビウス少年は一切説明してくれなかったから、その辺りはこれから漣が自分で探っていくしかなさそうだ。
まずは、特変[特撮変身ヒーロー]から。
これは職業なのかそれとも称号なのか。
わざわざ「特撮」とついているのは、元の世界で特撮ヒーローショーのバイトが影響しているのかもしれない。
メビウス少年はグランゼイトの力を与えると言ったのだから、別に変身ヒーローだけでも良いような気がする。
しかも『特変』と、略しかたが微妙だ。
「人に見られたら、特別な変態、とか思われそうだよな、これ……」
基礎能力については、レベルアップしたことで数値も上っているみたいだが、この値がこっちの世界でどれくらいのものなのか、比べる対象がないので判断しようがない。
[]内に×10となっているのは、もしかして平時と戦闘時ということかもしれないが、これも憶測だから何ともいえない。
スキルの項目に『変身』があり、特変レベル5で開放となっていて、どうやらさっき変身できなかったのは、現在のレベルが低いせいだったようだ。
後は、射撃、剣術、格闘のスキル。
こちらは★で表示されていて、星が多いほど技術が上ると考えていいだろう。ただ、上限がどれくらいかなのかは分からない。
素早く動くウサギ5匹の額を、至近距離とはいえ一瞬で撃ち抜いたさっきの射撃は、ただ天才というレベルを遥かに超えている。
試しに遠距離はどうだろう。
ぐるっと周りを眺めて、100mほど先に一本だけはっきりと枝の分かれた木を見つけた。
ここからだとまるで爪楊枝にしか見えないが、実際には人の腕くらいの太さはあるはずで、的にするにはちょうどいい。
漣は「ふっ」と軽く息を吐いて銃を抜き、目の高さに両手で構え、素早く狙いをつけてトリガーを引く。
グゥォン!
発射音とほぼ同時に枝が千切れる。
グゥォン! グゥォン! グゥォン!
続けて3発。
全弾が狙い通りに命中し、葉の付いた枝は4つに分かれて地面に落ちた。
「ハンドガンでこれか……」
漣は以前、格安プランの海外旅行で、観光客相手の射撃場に行ったことがある。
少々値は張ったがそこは演技の参考にと、仲間たちと一緒に何丁かのハンドガンを撃ってみた。
結果は誰一人、10m先の的にさえ満足に当てることができないという笑えるものだった。
そのとき、映画やドラマの主人公のようにハンドガン一つで颯爽と敵を屠っていくためには、相当な訓練が必要なのだと痛感した。
そのハンドガンでこの結果という事は、★5は上限かそれに近いと考えても良さそうだ。
更に剣術と格闘も★5だから、戦う能力は相当に高いのだろう。
ただ、肝心な剣は今のところないわけで、だからと言って素手で力を試す気にもなれない。
レベルアップの具体的な方法や条件も分からない以上、現状グランゼイトに変身できるようになるまでは、この射撃の腕が頼みの綱になるのは確かだ。
ウサギがアラートⅠなら、この先もっと危険な生物にも遭遇するだろう。
なるべく早くレベル5になって、『変身』を開放する。
とにかくそれが最優先だ。
この訳の分からない世界で生き残るために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます