第36話 眠りの森最終攻略2

 俺はアリスやユウジと何回も本音で話すことによってお互いの考えていることを徐々に理解することができた。

 みんなでお互いに話して、一緒に悩んだほうが良い結果につながることにやっと気づけた。


 そうだ、この際小さなことでも洗いざらい話したほうがいいだろう。

 俺はダンジョン内で周りに魔物がいないことを確認して歩みを止めた。


「おいハジメ、いきなり止まってどうしたんだよ」

「アリス、ユウジ。実は今まで黙ってたことがあったんだ」


 俺は街中で獣人と偶然出会ったこと、そこで隠しダンジョンを見つけたことをアリスとユウジに打ち明けた。

 二人は黙って聞いていた。


「全ての原因は俺がその獣人に唆されてこの隠しダンジョンに行こうとしたことなんだ。そのせいでみんなが巻き込まれて、それで嫌な思いをすることになったんだ」


 俺があの獣人の話を聞かなければ、隠しダンジョンに行かなければ、こんなことになってなかったのではないか?


「俺がダンジョンに行こうと言わなければ、みんなあのまま平和に暮らせたかもしれない」

「そんなことないですよ。私は大丈夫ですし、サキさんにもいつかちゃんと全部言ってあげてくださいね」

「俺らは気にしてねぇよ。お前の意味わかんねぇダンジョンに行きたいっていう熱意に動かされただけだ。それに元の世界に帰りたいのは俺等も同じだ」 


 アリスとユウジはそう言って励ましてくれている。

 サキともちゃんと話さないといけない。

 今考えるとあの時は思ったことを好き放題言ってしまった気がする。


「あと言い忘れてたけどサキと最近会ったんだ」

「サキさん見つかったんですか!どこでですか?」


 この間のことを話すとアリスは驚いた声を出し、詰め寄ってくる。


「最後にオールドアロウに行った日に宿屋にいたんだ。それで、もう会うことはないって言われて」


 あんな別れ方をしたのをいまさらながら後悔していた。


 「大丈夫ですよ、また会えますよ。その時はちゃんと話をして謝ればいいじゃないですか」


 しかし俺はサキに謝れる日が来るのだろうか?その時が一生来なかったらどうする。    

 もし何らかの原因で俺が死ぬことになったら?

 もしサキがずっとどこかに行って戻ってこなかったとしたら?

 悪い予感が頭の中でちらつく。

 そんな妄想を振り払うように首を横に振った。


 大丈夫。そんなことにはならない。

 みんなこれまでうまくやってきて、それなりに強い。

 そして、きっとサキはいつか戻ってくる。


「サキさんとハジメさんはずっと二人で中学生の頃からアイディールワールドをやっていましたよね。多分サキさんがハジメと仲がいいのもそれが理由なんじゃないかって思ってたんですけど、それでもそんなに喧嘩になるんですね」


 アリスが首を傾げながら言う。

 最初からサキと俺はあのゲームをやっていた?

 そんな記憶は戻ってきていない。


「それって本当か?アリス、お前そんな記憶言ってなかったじゃないか」

「そうでしたっけ?私の記憶だと現実世界ではサキさんは常に一緒にハジメさんとゲームをしてましたよ?ログインしたら常に二人がいましたし」

「俺もその記憶はあるぞ、二人で狂ったようにあのゲームやってたよな」


 アリスの話にユウジも乗ってきた。


 じゃあアリスとずっと一緒にこのゲームをやってたという記憶はどうなってるんだ?

 てっきり俺は常にアリスとあのゲームをやっていたと思い込んでいた。

 むしろ途中から入ってきたのはサキとユウジじゃないのか?


 ユウジとアリスの話によれば、最初から俺とサキはゲームの中で出会っていてずっとあのゲームをしていたようだ。


 あのダンジョンで戻ってきた記憶が間違えているのか?  

 それとも戻ってきている記憶がそれぞれ違う?

 でもそれじゃあサキはどうなる。

 考えれば考えるほどますます混乱してきた。


 混乱している頭のまま、目の前の薄暗がりの通路を凝視する。

 俺たちはここまで歩き続けて14層の大分奥まで探索していた。

 やっと階段を見つけたと思ったら付近はなぜか魔力が滞留していた。


「ここ魔力が濃いぞ。気を付けたほうがいい」

 そう言うとユウジとアリスに緊張感が走る。 


 その周辺から出てきたのは俺とアリス、ユウジそっくりの姿形をした擬態化した魔物だった。

 うめき声と一緒に、聞き取りづらい不愉快な言葉を発している。


『なんでみんな自分勝手なんだ・・・』

『クラスメイトが憎い・・・』

『ずっとゲームをしていたい・・・』


 それぞれの擬態が呪いのように言葉を発している。


「自分のコピーと戦うってことか?面白いじゃねぇか」


 そう言うとユウジは駆け出して、自分の擬態に対して片手剣を突き出して戦闘を始めた。


『ゲームの世界に転移して良かった、家に帰って気まずい思いをしなくて済む』

「そりゃあ話が合うな、今もそう思ってるよ」


 ユウジとその擬態の打ち合いが始まった。

 小気味が良い金属音がテンポよく鳴り響き、一瞬の隙もない。

 ユウジの戦い方は徐々に敵の体力を削るような様子見型なので長期戦が予想された。


「俺らもぼちぼち戦わないとな」


 俺は自分の擬態とアリスの擬態を見据えた。


「そうですね、それにしても他人に擬態するとは趣味が悪いです」

「研究所で擬人化スライム作ってる奴に言われたくないんじゃないか」

「むむ、それは言わないお約束ですよ」


 一瞬、頬を膨らませるとアリスは自分の擬態を見てすぐに神妙な顔つきになる。

 杖をかざし、戦闘準備をするアリス。擬態が近づいてくる。


『クラスメイトが憎い、あのせいで私は世界が嫌いになった」


 擬態化した魔物が詠唱すると炎属性の魔法がアリスに飛んでくる。

 俺たちはなんとか避けたが、その威力から魔法の練度の高さが伺えた。


「今はそう思ってないですよ、できれば帰りたいんです。炎よ、顕現せよ!マハリート!」


 小型の魔法がアリスに擬態化魔物に飛んでいった。義体は炎が直撃するとあっけなくに消滅する。


「私は現実の世界で生きたいです。約束をしているので」


 力強く宣言するアリス。

 そうやってこちらを向いて笑みを見せる。

 そうだった、こいつと約束をしていたんだ。

 こんなところでは負けられない。


 アリスの魔法で消滅したと思われた擬態が地面を這いずり回っている。


『私は昔からハジメのことが好・・・』

「ほ、ほ、炎よ、わ、我を灰の大地へと誘い給え、ヘルフレイムディザスター!」


 アリスはどもりながら一瞬で高速詠唱すると、さっきよりも高火力の魔法が超至近距離でアリスに擬態化した魔物に直撃する。


 アリスの擬態は跡形もなく消し飛んだ。

 一体の魔物に放つには少々オーバーな使い方にも思える。

 というかアリスに魔法は節約しようって言ってなかったっけ?


「さっきアリスのコピーが俺の名前呼んでなかったか?」

「呼んでないです。それよりも自分のコピーに集中した方が良いんじゃないでしょうか」


 アリスが言うや否や俺の擬態が襲い掛かってきて、鋭いダガーの打ち下ろしが降ってくる。


『ずっとゲームをしていたい・・・親も知り合いも要らない・・・一人で生きていたい』


 俺はずっと自分の擬態の攻撃をよけながらその言葉を聞いていた。

 やはりこの世界に来る前の自分もこう思っていたのだろうか。

 でも俺もアリスと同じ考えだ。


「今はそんなの思ってない。俺たちなら一緒に生きていけるはずだ」

 

 擬態の大きく振りかぶった攻撃をかわすと、俺はダガーををまっすぐ突き出して擬態の胸元を貫く。

 低い呻き声を出すとその擬態化した魔物は消えて無くなった。


 アリスと俺がユウジのところへ行くとそちらも戦いが終わっていた。


「ふん、激戦の末、致命傷で済んだぜ」


 ユウジは冗談を言いながら、片足を引きずっていた。


「お前、大丈夫かよ」

「こんなの大したことないぞ」


 ユウジは本当に致命傷なのか、ふざけて言ってるのか分からないが、擬態との戦いには勝利したようだった。


 フロアの先には15層への階段があってそれをみんなで降りた。


「本当に悪趣味だったな、自分の擬態と戦わないといけねぇなんて」

「精神攻撃だけで実際は弱かったのが救いだな」


 階段を降りると、おれたちはいよいよ地下15層の扉の前に来た。


「じゃあここで一区切りだな、ボス戦頑張っていこうぜ」


 ユウジの掛け声とともに俺たちはその扉を開けた。

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