第35話 眠りの森最終攻略1

 俺たち3人は早い時間帯から宿屋の前で集合し、眠りの森ダンジョンへと向かった。


 出来れば10層から攻略したいのだが、ダンジョンの外から10層まで転移する方法がなかったので、仕方なく早めの時間に来て1階から下っていった。


「さすがに集合時間が早すぎて眠いぞ」

 ユウジが眠気眼をこすりながらぼやいた。


「仕方ないだろう、早めにいかないと深くまで攻略できないんだから」

「転移魔法で好きなところに転移できるようにならないのかね」

「無理だな。現状行ったことがあるところにしか行けないし、好きなところに転移するには転移魔法のスキルをめちゃくちゃ伸ばさないと出来ない」

「すいません、私が転移魔法を中途半端にしか使えなくて」


 アリスがその会話を聞きながら悲しそうな顔をする。


「いや、ほら。アリスがダンジョンの入口に魔法陣描いたおかげでみんな帰りは楽できる。それだけでもいいじゃねーか」


 ユウジがフォローするがアリスは「ふふふ、私は使えない魔法使いなんです」と言いながらいじけてしまった。

 ユウジを睨むと悪い悪い、と言わんばかりに笑っていた。


 1層から10層までの道のりを最短距離で急ぐ。

 なるべくダンジョン内では下の階へと続く道を探し、階段を降り続けた。


 俺はシーフの敵察知や足音を消すスキルを使い、先陣を切って魔物がいないか確認した。

 魔物を避けて階段を下りる。やむを得ない場合は最小限に戦う。

 基本的にはこの作業の繰り返しだ。


 そして俺たちは首尾よく11層までたどり着いた。


 いよいよここからが今回のダンジョン攻略の本番である。

 11層からの魔物は小型のミノタウロスが出現し、今までのゴブリン、アンチピードなども出てきた。

 このダンジョンは何層まであるか分からないが、最終階層が近いことを祈りながら下っていき、13層にたどり着いていた。


「ハジメさん、私はやっぱり使えない魔法使いなんです」

 俺とユウジが先頭を切ってダンジョンを進んでいると、後方のアリスから絶望した声が聞こえた。


「どうしたアリス?」

「さっき気づいたんですが、先ほどから何回やっても転移の魔法が使えないんです」

「それはまずいな」


 ダンジョンの天井を見上げて思案する。

 転移魔法が使えないとなると困ることが増える。


「でも他の魔法は使えるよな?」

 ユウジがアリスに確認する。


「それは大丈夫なんです。ただ転移の魔法だけが使えません。どうしましょう」

「ここまで来て、転移の魔法が使えないのは面倒だな」


 ここから地上に戻るまでそれなりに長い道のりだ。

 それよりだったら急いで14層、15層を攻略して魔法石の有無と強い魔物がいるかどうかを確認したい。

 そういった計画でも遅くないのではないか。


「ユウジ、どうする?」

「どうするも何も、ここまで来たら進むしかない。お前もそう思うだろ?」


 ダンジョン攻略が長時間になると無理もないが、全員に疲れが見え始めていた。


「もうすこしで15階層だから、そこで魔法石とボスモンスターの確認をしよう。ダンジョンから抜けるのはそれを確認してからでも遅くはないはずだ」

「まあそうなるよな。どっちみち、ここらで気張らないといけないってわけか」


 ユウジが腕を回す仕草をして、気合を入れる。


「アリスは大丈夫か?」

「魔力を温存すれば、まだ大丈夫だと思います」


 幸い、回復アイテムや最低限の食糧は持ってきている。

 だが短期決戦で残りの2層をクリアして地上に戻ると考えるとやや心もとない。

 サキのありがたさが今になって分かる。あいつは無尽蔵の魔力と多彩な魔法スキルを持っていた。

 そして、そんなサキならば転移が出来ない理由もすぐさま解決するに違いない。


「アリスの魔力と俺たちの体力がそこまで持つかどうかだな」

「すいません。なるべく魔力消費の少ないの魔法を使いますね」

「大丈夫だよ。俺が無計画なのが悪いんだ」


 俺はそう言うと、先陣を切って歩き始める。

 早めに攻略したいということもあり、これまで以上になるべく魔物と戦わずに進みたい。


 13層では小型ミノタウロスとゴブリンの群れが出現した。3人でゴブリンを先に対処するとミノタウロスの相手をした。

 こいつは大型のミノタウロスに比べたら大したことはない。

 ユウジがミノタウロスの斧を盾で防ぐと、俺が横から頭を刺した。


 この階はアリスの魔法を使わなくても、魔物の処理が出来たのでかなり魔力を節約できた。

 しかし、14層にも強い魔物が出現したらいよいよ帰ることを考えないといけなくなる。


 みんなが疲れて会話が少なくなったころ、ユウジが話をし始めた。


「こういう時は将来楽しみなこととか、そういう話をした方が良い」

「例えばどんな話だよ?」

「そうだな、元の世界にいつか帰ることが出来るとしたら、何をしたい?」

 3人が薄暗がりのダンジョンの中で黙々と歩を進める中、ユウジが質問をした。


「うーん、急に言われると思いつきませんね。ユウジさんは元の世界に戻ったらしたいことあるんですか?」

 アリスがしばらく考えていたが。何も思いつかないようで質問を返す。


「そうだな、みんなで野球したいな」

 ユウジがニヤリと顔をほころばせた。


「ユウジさんって野球がお好きなんですか?」

「戻ってきた記憶によるとそうらしいな。だからみんなで野球でも、バッティングセンターでも行ってみたいな」


 そんな話は初耳だった。ユウジが野球好きなんて知らなかった。


「あ、私思いつきました。みんなで普通に水族館とか遊園地とか行ってみたいです。普通の高校生っぽいことがしたいので」

 アリスはそんな平和な未来に思いを馳せていた。


「その時はサキさんも、もちろん呼んで一緒に行きましょうね?みんなで手を繋ぎながら仲良くデートです」


 それはアリスらしい、ふわふわした楽しい想像だった。

 俺もそうなったらいいなと思うと同時に、アリスは本当にサキの事を想っているのが感じられて自分がサキにしたことに罪悪感を感じた。


 サキに会えなくなってからアリスはずっとサキのことを気にし続けている。

 アリスの為にも絶対に後でサキを探さなくてはならない。

 こんなことになるなら宿屋でサキに会ったとき無理やり捕まえてでもみんなの前に引きずり出すべきだっただろうか?


「サキと遠出したら振り回されそうで嫌だな」

 俺のぶっきたぼうな呟きにアリスはクスクスと笑った。


「ハジメはなんか戻ってやりたいことあるのか?」

「みんなで別のゲームをやってみたい」


 ユウジとアリスは顔を見合わせると、揃って苦笑する。


「変わってねぇな」

「ハジメさんらしいですね」

「ゲーム以外だとしたら、そうだな。もっとお前らの事を知りたい」


 意外な言葉だったらしくユウジとアリスがきょとんとする。

「俺らのこと?」

「もっとみんなのことが知りたいんだ。元の世界でどうやって生きてて、何が問題で俺がそのために何ができるのかとか。俺はそれを今まで無視して生きてたような気がする」


 俺が言葉を言い終わると、アリスはなぜかニコニコとしている。

「お前、帰ってもその言葉忘れんなよ」

 ユウジがにやけて肩を軽く押してきた。

 












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