第33話 ユウジの葛藤2
「お前がそこまでしてアリスを庇ったっていうのは、アリスのことを好きだからか?」
俺は純粋な疑問を聞いてみる。
ユウジはきょとんとしたが、すぐさま笑った。
「いや、そんなんじゃねえよ。ただ、強いて言えば俺はお前とアリスとサキ、4人でいるのが好きだったんだよ」
そういえば、こいつはこういう奴だったな。
明るくて前向きで、密かにみんなの事を気遣える奴。
その性格はこの世界でも一端が垣間見えている。
現実の世界でもみんなに好かれて上手くやっているのだろう。
「そもそも。アリスより胸がもっと大きいほうが好みだしな。たまに街中でみかける胸がでかくて背が高いエルフとか最高にタイプだね」
「お前、絶対アリスにそれ言うなよ」
ユウジの好みの話を聞かされ、俺は感動しかけていた気分が台無しになった。
そうだ、こいつはこういう奴でもあった。
「アリスもだけどサキもどうにかしないとな」
ふいにユウジがサキの話をし始めた。
「俺も探してるんだけど、なかなか見つからないんだよ」
「お前はサキと最近まで一緒にいたんだろ?アリスを探す前まで一緒にサキと飯食ってたじゃねぇか」
「サキと話したのはあれが最後だったな」
「あの時、サキが泣いてたけどなんかあったのか?」
「サキに今のお前は嫌いだって言ったんだ」
ユウジは俺の言葉に唖然としていた。慌てて取り繕うように説明した。
「サキが変なことを言ってたんだよ。この世界のために頑張ってきたとか、私はこの世界を作ったとか。あいつ、おかしなことを口走ってたんだ」
ユウジは釣り竿の先をじっと見つめると無言で俺の話を聞いていた。
「その言い方気になるな。私がこの世界を作った?」
「どうせ女神ごっこに明け暮れて変な妄想に取りつかれたんだろ?」
俺は呆れてぞんざいに言葉を返した。
「もし、もしもだぞ。サキが本当にこの世界を作ったとしたらどうする?」
「お前まで変な妄想に取りつかれてるのか?」
「だってそうだとすると、辻褄が合うじゃねぇか。サキがチート並みに魔法が使えることだって、この世界を作ったっていう戯言だって、本当に女神だったら理解できる」
ユウジは興奮しているのか、少し大きな声で言った。
「本当にこの世界を作ったのがサキだって思ってるのか?」
ユウジの真剣に考え込む様子を見て鼻で笑った。
「サキだったらやりかねないと思わないか?」
「あいつだったらやりかねないかもな。でもその考えは突拍子も無さすぎないか?」
俺の言葉にユウジは冷静になったようで、しばらく考え込んでいた。
「結局、記憶を戻さないと分からないんだな。そっちはどれくらい記憶が戻ったんだ?」
ユウジの問いかけに俺は自分の記憶を洗いざらい話した。
中学校からオンラインゲームにハマってアリスと出会ったこと、高校には行かずにゲームをやって引きこもりがちなこと。親とあまり仲が良くないこと。
「みんな同じようなもんだな」
「そうかもな」
「さっき俺はみんなで協力したいと言ったけどそれは俺の母親と父親が仲良くないから、その反動だと思う」
ユウジはそう言うと苦笑いした。
「だからお前の話はあんまり良い気はしないんだよな。いつかちゃんと仲直りして欲しい」
俺はユウジの話を黙って聞いていた。
「なあ、やっぱりさっさとあのダンジョンをクリアして記憶を取り戻して、現実世界に帰る方法を見つけないか?」
ユウジは急に立ち上がって提案をしてくる。
「別にいいけどさ、でもどうしてアリスもお前も辛い現実世界に戻りたいんだよ?俺なんて最初の頃はこの世界に来れて良かったな、としか思ってなかったのに」
そんなに現実が辛いんだったらこの世界でずっと暮らしていけばいい。
それは当然考えることではないだろうか。
「俺はお前らとみんなで、現実世界で生きたいんだよ。この世界も好きだけどよ、都合の良いだけの世界じゃなくて、喧嘩したり、意見が合わなかったりしてもそういう世界で一緒に生きたいと思ったんだよ」
「ユウジってたまに深いこと言い始めるよな」
「いつもは発言が浅いってことかよ、この野郎」
そう言うとユウジは腕で俺の首を軽く締めてきて、中々離してくれなかった。
俺は今回の話を聞いて現実世界に戻ってアリスとユウジと一緒に生きていきたいと今までにないほど思った。
俺たちは似た者同士なのだ。
しかし、サキについては現時点で何も解決策がなかった。
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