第20話 アリスと擬人化スライム実験2
「あ、そういえば」
アリスは何か思いつくと研究室の奥へ向かい、ゴソゴソと古びた箱を漁っている。
やがて箱の中からビン詰めにされたカラフルな液体を取り出した。
「ハジメさんにこれをあげます」
アリスは発色する主張の激しいカラフルな液体が詰められた瓶を渡してくる。
「この瓶の存在は誰にもバレないようにしてほしいです。あとお休みになる前とか、一人の時に開けてください。これ絶対です」
興奮してるのか声が上擦っているし、なぜか小声だ。
「お、おう」
「その、ハジメさんも辛いときとか、寂しいとき、とかあると思うので」
アリスは小声でもごもごと喋っている。
「それで、この瓶の中身は何が入ってるんだ?」
「今、実験で見せた擬人化スライムが入ってます」
目の前にいるスライムと視線が合う。
スライムの顔は無表情で変化がない。
「そうなのか。この瓶詰めされた擬人化スライムはどんな見た目をしてるんだ?」
俺が疑問を口にすると、アリスはなぜか俯いて黙ってしまった。
「アリス?そこが結構大事なんだけど」
アリスは俺の問いかけには答えず、耳を赤くしてなぜかもじもじしている。
あの、えーと、その、と連呼して固まっていた。
ああ、アリスは魔法の事を考えすぎて会話する脳のリソースが無くなっているのかもしれない。
「なんだか分からないけど、もらっておくぞ。ありがとうな」
俺はとりあえず感謝すると、悲しき研究モンスターアリスの研究室を去ろうとした。
俺が研究室から出ようと踵を返すと服の袖を軽く引っ張られる。
振り返るとアリスが俺の袖を引っ張りながら少し涙目で口を震わせている。
「そ、その中身、なんですが」
意を決したように言葉を吐く。
ただでさえ華奢なアリスがさらに縮こまって見えた。
「私みたいな背丈で、私みたいな顔の擬人化スライムが入ってます」
それを聞いた瞬間、やけに周りが静かに感じた。
「それは、どうも」
どうもってなんだよ。とっさのことで変な返事になってしまった。
正しくはアリスみたいな擬人化スライムか、観賞用に使いますね、どうもありがとうだ。
「最近ハジメさんが元気ないからです。夜に変なお店に行くよりも、それで気晴らしでもしててください」
ん?気晴らし?気まずい沈黙が流れる。
だからさっき一人の時に開けろって言ってたのか?
というかこの前ユウジにバラされた夜のいかがわしい店に行ってるということがしっかりと覚えられてる。頼むからあれは忘れてほしい。
「なあ、この擬人化スライムって服を脱がせることはできるんだよな?」
「服を脱がっ!へ?はぁ!?」
俺の質問にアリスは動揺していた。
「いや、だって辛いときや寂しいときに使えって言ったじゃないか」
「そ、そういう意味で渡したわけじゃないです!勘違いしないでください、それはいつもそばにいますよ、一人じゃないですよという意味であって、決してそんないやらしいことに使えという意味ではないんです!」
「いやいや会話の流れからして、どう聞いてもそう聞こえるんだ、こっちは」
「そんなことだからサキさんに呆れられるんじゃないですか?ハジメさんはダンゴムシとか、しょうもない人生とか!」
「サキは関係ないだろう、別に付き合ってるわけでもないんだし」
「え?そうなんですか?」
アリスは何故かきょとんとした顔をした
「言いたいことはそれだけか?ありがたくおまえの姿をした擬人化スライムもらっておくぞ。あーどうやって使おうっかなー、楽しみだなぁ」
俺は舌なめずりをして瓶を見つめる。
「も、もう良いです。どんなふうにでも使えばいいでしょう」
アリスはそっぽ向いて口をつむいでしまった。
「は、話が終わりなら出ていってください。ハジメと違って私は研究で忙しいのです」
もうちょっと詳しく擬人化スライムの話を聞こうとしたが、アリスに出口の扉の方まで押し出され、鍵を掛けられてしまった。
俺は大事にその擬人化スライムの瓶を懐にしまい込むと、魔法学校を早急に後にした。
本当はアリスにダンジョンで使える魔法を教えてほしかったのだが、そんなものはこの擬人化スライムの前では些細なことだった。
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