第15話 作戦会議という名の飲み会2

 店の外に出るとユウジが遠くの方を見て黄昏ていた。


「急にどうしたんだよユウジ。風に当たりたかっただけとか言うなよ?」

「へへ、そうかもな。風が気持ちいいしな」


 口角をあげ、くさいセリフを言うとユウジは再度、遠くの空を見上げるようにしてつぶやく。


「ところでお前、アリスの話聞いてどう思った?」

「どう思ったって、あれは単なる夢の話だろ?」


 ダンジョン内で見た生々しい映像、アリスの夢の話、これらを繋ぎ合わせて考えると何かが起こっている気がしていた。

 しかし、それを認めたくないかのように常識ぶった答えを口にしてしまう。


「普通、そう思うよな。それがめちゃくちゃ常識的な反応だと思うぜ」


 ユウジは俺の受け答えに対して笑うと、急にすました顔になった。


「お前、何が言いたいんだよ」


 ユウジを問い詰めると観念したようにつぶやいた。


「俺もさ、アリスと同じような夢を見たんだ」


 その一言に俺は一瞬、時間が止まったかのような錯覚を覚えた。


「本当か?いつからなんだよそれ」

「昨日のあたりから、経験してないはずの夢を見るようになったんだよ。アリスが言ってた夢とはちょっと違うんだが、だけど結構リアルでな」

「どんな夢なのか教えてくれるか?」

「まあ、いいけどよ。大した話じゃねぇんだよ、笑っちまうようなあり得ない話でさ」


 そこで言葉を切ると苦笑いで話し始める。


「俺たちがさ、この世界とよく似たゲームを仲良くプレイしてるんだよ。その世界ではサキも俺もお前もアリスも楽しそうに一緒にゲームをやってるんだ」


 俺はユウジの言葉を黙って聞くことしかできなかった。


「そのゲームはこの世界と変わらないというか、まったく同じなんだよな。スキルもジョブシステムも魔物の種類も」


 この世界と全く同じゲームを元の世界でもやっていた?


「違うのは俺たちが中学生だったってところだけだな。なんていったけな、そのゲームの名前、そうそう、あれだ」

「何ていう名前だったんだ?」

「それがアイディールワールドって名前だったんだよ。お前も知ってるだろ?偶然にしてはすごくないか?」


 アイディールワールド。

 どこかでその名前を聞いたことがあるが、どこでだったか思い出せない。


「なんで俺がその名前を知ってると思ったんだ?」

「もう忘れたのかよ。ここに初めて来たときもドワーフのおっさんが言ってたじゃねぇか。『ようこそ皆様方、アイディールワールドへ』って」


 思い出した。

 俺たちがこの世界に転移したときに言われた言葉。

 アイディールワールド。


「この世界の名前と俺たちが中学生の頃にハマっていたゲームのタイトルが同じってことか?」

「偶然なのか分からんが、そうなるな」


 ユウジは渋い顔を俺に向けた。

 ということは俺たちはその中学生の頃にハマっていたゲームに転移しているということなのか?


「まあ、それだけなんだよ。単なる夢なのかどうかは分からん。でもアリスがハジメと一緒にダンジョン攻略をしてたっていう夢を言い始めたから、もしかしてって思ってな。酔っちまって伝えるの忘れると困るし先に言っておいたんだわ」


 ユウジは呆然とする俺の肩を軽くたたく。


「お前は昔の記憶を取り戻したいって言ってるじゃねぇか。サキもそのためになんか動いてるみたいだし。それに影響されてアリスも俺もおかしくなっちまってるのかもな」


 ユウジは俺の返事は待たず「んじゃ戻るべ」と言って酒場に戻っていった。

 俺はそれにはついていかず、酒場の外にとどまり考えをまとめようと必死に頭をフル回転させていた。


 なぜ、このタイミングでアリスとユウジが同じような夢を見ているんだ?

 色々と思考を巡らせて考えていたが、思い当たるのは一つだった。


「あのダンジョンの魔法石を壊してしまったからアリスとユウジが同じ夢を見たのか?」


 俺が隠しダンジョンの魔法石を壊し、ダンジョン内で謎の映像を見た。その後、アリスとユウジも似たような夢を見た。

 しかし、これは単なる同じ夢を見ただけなのか、それともそれ以上の意味があるのか分からなかった。


 もうすこしでパズルのピースがきれいにハマっていくように、何かがひらめくような気がする。

 しかし、何かがそこまで見えているはずなのに核心がまだ見えなかった。


 酒場に戻るとアリスがみんなの前で立ち上がって喋っていた。

 アリスは眠りから覚めたようだ。


「最近、私たちはバラバラに行動することが多かったじゃないですか。これは冷めきったパーティの仲を元に戻すための絶好の機会ですよ。あ、でもサキさんはハジメさんとイチャイチャしてるからお邪魔かもしれませんね」


 酒を飲んだ時のアリスは、いつもの内気な様子とは違いかなり饒舌だ。


「言いたいことは分かるけど、なんか最後私に対して嫌味言ってない?」

「アリス、気持ちはよーく分かるぞ。でもお前は飲み過ぎだ」


 サキとユウジがアリスの演説を聞いて困惑している。

 俺は何の話をしているのかよく分からず、とりあえず席に着く。


「ハジメさん、おかえりなさい。今ハジメさんが見つけた隠しダンジョンに、みなさん一緒に行きませんかとお話をしてたんです」

 アリスは顔が上気していて少し興奮しているみたいだ。


「ということでハジメ、みんなが隠しダンジョンに行きたいってさ。あんた一人で行くんじゃなくてみんなで行きましょ」

「みなさんはハジメさんと一緒にダンジョンに行きたいんですよ」


 サキの言葉に続いて、アリスは顔に笑みをたたえて俺を見てくる。

 みんなが期待の眼差しを俺に集めた。


「そうだな、じゃあみんなで隠しダンジョンに行ってみるか」


 俺が頷くとみんなの顔が一段と明るくなった。


「そうと決まれば準備しなくちゃな」

「私も皆さんと一緒にダンジョン攻略をするの楽しみです」

 ユウジやアリスは嬉しそうに声をあげた。


 そうして俺たちはみんなで眠りの森ダンジョンに行くことになった。

 

 俺たちはただ共通の目標を見失ってたのだ。

 結局、みんなは一緒に何かをしたいと思ってはいたが、何も思いつかなかった結果、仕方なくそれぞれが好きなことをやっていただけかもしれない。

 そうだな、目の前にみんなでやれることがあるなら一緒にやろう。

 

 その日はみんなと隠しダンジョン攻略の話に夢中になっていくうちに夜が更けていった。

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