第16話 眠りの森をパーティで視察
俺たちのパーティはスターティアから南東へ移動し、眠りの森に来ていた。
先日、みんなで一緒に隠しダンジョンを攻略をしようと決心した。
その時にとりあえず偵察した階層までみんなで見てみようという話になり、今日を迎えている。
先頭で眠りの森を進んでいく俺の後ろで、みんなは疑心暗鬼で歩を進めていた。
「本当にこんなところにダンジョンがあるの?」
サキは木々に囲まれた、閑静な森林地帯を見渡す。
他のメンバーも同じように首を傾げながら同意する。
「何回か眠りの森には来てますけど、このへんでダンジョンがあるという話は聞きませんよね」
この前、酒を飲んでいた時にはテンションが上がっていたアリスも今は冷静に周りを見渡していた。
「ここらへんにあったはずなんだけどな」
隠しダンジョンを見つけたあの時は、まだ日が昇らない早朝だったので視界が悪く、現在とは景色の見え方が違っていた。
以前ダンジョンの入り口を見つけたところを探し回るが、おかしなことにどうしても見つからない。
付近を探し回っても見つからず、焦りが出てきたそのとき、またあのノイズが響く。
(ず××××××?)
それに合わせて俺は一瞬立ち止まった。
「ハジメさん?どうしました?」
「あのノイズが聞こえる!大丈夫だ、隠しダンジョンは近いと思う」
前回も頭の中からノイズが聞こえて、そこから隠しダンジョンが見つけることができた。
俺は周りを見渡すと魔力の流れを察知し、ノイズの発生した方向へと駆け出す。
やがて、露出した岩肌の中にダンジョンの入り口を見つけた。
どういう仕組みなのか分からないが、前回とは入り口の場所が違っていた。
「うわ、本当にこんなところにダンジョンがあるんだ」
サキは目を丸くして信じられなそうに入り口を覗いている。
「こりゃすごいな、内部も大きいんじゃないか?」
「ハジメさんが一人で中に入っていくのも何となくわかりますね」
みんなは突然現れたその隠しダンジョンに感嘆の声をあげていた。
「じゃあ、さっそく入ってみるか」
みんなが恐る恐る洞穴のようになっているダンジョンの入口へと進んだ。
「涼しい、というより若干肌寒いですね」
アリスが周りを見渡しながら自分の腕を抱く。
「こんなところにあんた一人で突っ込んだの?よく無事だったわね」
「なんか、楽しくなっちゃって」
「ダンジョンなんて久しぶりですもんね」
ダンジョン内は静寂に包まれており、自分たち以外の声はしなかった。
以前、偵察に来た時に主要な場所にいた魔物を処理したおかげで、魔物の出現率はそんなに高くない。
俺たちはたまに出てくる魔物の処理をしながら、ダンジョンを進んでいた。
「スターティアの近くだからか、ゴブリンとスライムしか出ねぇな」
ユウジが喋りながら片手間で処理したゴブリンの持ち物をあさる。
「そもそも私たちが魔女を討伐したから、魔物はそんなに出ないはずなのよ」
サキはダンジョンの中を見渡しながら注意深く進んでいた。
「このダンジョンもあまり魔物は出ないんでしょうか?もっと大型の魔法を撃ちたいのですが」
アリスは手持無沙汰なのか、ゴブリン相手にいろいろな魔法を撃っている。
アリスの魔法に翻弄されオーバーキルされているゴブリンが少し可哀そうだった。
地下3階層まで来た辺りでサキが「あっ」とつぶやいた。
「ちょっとまって、試したいことあるから」
サキが地面を人差し指でなぞっている。そのなぞった後が青白く発光し、やがてそれは魔法陣になった。
続いて小声で何やらつぶやくとその魔法陣は鈍く光る。
杖無しで魔法陣を描くとは、こいつ本当に何でもありだな。
「良かった。このダンジョンは転移魔法が使えるっぽいわね」
「それじゃあ、疲れたらすぐ帰れますね」
アリスが安堵したように胸をなでおろす。
これはダンジョン攻略する者にとっては朗報だった。
普通、ダンジョンを攻略する際には転移魔法が描けるメンバーが必要である。
「俺は転移魔法なくてもダンジョン内で寝るからいいけどよ」
ユウジが冗談を言うとサキが反応する。
「本気で言ってる?あんた、いかれてるわよ」
「まあ一人だったら無茶できるけど、パーティだと徐々にダンジョンを進めて疲れたら帰るのが無難だよな」
俺やユウジだったら無茶できるかもしれないが、パーティだとそうもいかない。
「アンタは二度と一人で突っ走らないで」
「はいはい」
「ハジメ、ところでどうやってこのダンジョンを見つけたんだ?」
ユウジがふと疑問を口にする。
「なんとなく眠りの森でスキルの試し打ちをしてたら見つけてさ」
俺は何とか真実を悟られないように答える。
「眠りの森で練習って、アンタこんなところの近くでやってたの?」
「まあな、たまに外でスキルの訓練したくなるんだよ。俺は元々練習熱心だしな」
「ふーん、そんなの初耳だけどね」
サキはじっとりとした目を俺に向けたが、一応は納得したようだ。
ともかく誰も俺の事を疑ってないようで胸をなでおろした。
しかし、みんなを騙しているような気がして後ろめたい。
俺は街の路地裏で獣人と邂逅し、その言葉に従って眠りの森に来た。
そして、その言葉通りこのダンジョンを見つけた。
あの獣人は何者だったのだろうか。未だにその謎は解けないままだ。
「でもこのダンジョン、妙だわ」
サキがダンジョンの岩肌を伝いながら進んでいる。
「何か妙なところあるか?」
「なんかこのダンジョンに出現する魔物が弱いし、ダンジョンのくせに内部の構造が単調なのよ」
そう言うとサキは考え込んでしまった。
普通、ダンジョンの内部は入り組んだり行き止まりが多く存在する。
しかし、この眠りの森ダンジョンは比較的シンプルな構造をしており、どの層でも容易に下の階層に進める階段が見つかった。
「簡単に攻略できることが前提のダンジョンなんじゃないか?」
「もしや、隠し要素のダンジョンなのかもな。魔物は少ないけど、ダンジョン内には宝箱とかドロップアイテムが沢山あるとか」
俺が仮説を言うと、ユウジが希望的観測を付け足してくる。
「高く売れる宝石とかドロップアイテムとかねぇかな」
「古代の魔法が使える古文書とか落ちてませんかね?」
ユウジとアリスはサキの疑問そっちのけでダンジョンで拾えるアイテムを気にしている。
それを見て即物的な奴らだな、と思い笑ってしまう。
その後も低級の魔物の相手をしながら歩を進めると5階層の扉の前に着いた。
「この扉の奥がボスだと思ってたんだ」
俺が扉を指しながら説明した。
「思ってた?違ったんですか?」
アリスが首を傾げる。
「ところが、開いてみるとレベルが高い魔物はいなかったんだよ」
俺たちはその扉を開けた。
そのフロアでは俺が前に来た時の魔法石はすでに無くなっており、魔物もその階にはいなくなっていた。
「ん、ここに微かな魔力の痕跡があるわね。ハジメ、ここに魔法石があったわけね?」
サキは以前、魔法石が埋め込まれていた石柱を撫でている。
「そうだ。頭の中のノイズがうるさくて近づいて壊したんだ。」
「さっきからそのノイズとやらは何の事を言ってるんだ?」
ユウジが疑問を俺にぶつける。
「このダンジョンに来ると頭の中にノイズが響くんだ、それを辿っていくと魔法石があって、それが原因だって分かったんだよ」
「ふーん。というか、その魔法石を壊したあとはどうしたんだよ」
「疲れてたから出来るだけ魔物と遭遇しないようにダンジョンの外に出て、ぶっ倒れてた。意識が戻ったら教会にいたんだ」
「私は郊外で人が倒れていたんだ言われて、誰だろうって見てみたらハジメだったからびっくりしたのよ」
サキがわざとらしく目を丸くする。
「結構な無茶してんなぁ」
ユウジがあきれ、アリスは苦笑していた。
「私も言ったのよ。そんな無茶しないでって」
サキはそう言うが、そんなに俺は無茶しているように見えるだろうか。
「それより無事でよかったじゃないですか。新しいダンジョンを見つけてくれたことですし」
アリスが俺のことを気の毒に思ったのかフォローする。
ユウジとサキはそれを聞いて頷いた。
「さてと、今回の偵察は終わりということで帰りましょ」
サキは転移魔法をスターティアに設定し魔法陣を描くと、俺たち4人はその魔法陣から街へと帰った。
「あの眠りの森の5階層より下はまた今度攻略しましょ。それまでは各自準備をするということで」
サキは街の入り口でそう言うと、そこで一旦解散となった。
「ちょっと待って、ハジメ」
俺も宿屋に帰ろうとしたが、サキが声をかけてきた。
「なんだよ」
「あんた、何か私に隠してない?」
「あーそうだな、俺、隠してたことがあるんだ。実はエルフが昔から好きでさ。夜の店でもエルフを指名して遊んでるんだ」
「あんたの夜の事情とか知らないから。死ぬほどどうでもいい」
サキは顔を少し赤くして声をあげる。
「隠してることってこれぐらいなんだけど」
サキは「ふーん」と言いながら俺の事をじろりと睨んだ。
「それより、この前言ってた店予約しといたから」
「そうか。それは楽しみだな。その日だけは馬子にも衣装だからな」
「それはこっちのセリフよ」
そう言うとサキは別れの挨拶をしてスターティアの人込みの中に消えた。
もしかして、サキは何かに感づいたのだろうか?
まさか魔法石によって夢が見れることや獣人の件が気づかれたのだろうか?
いやそんなはずはない。
俺は何も気づかれるようなことは口走っていないはずだ。
聞かれなければ余計なことを言わなくてもいいだろう。
そう考えると俺は宿屋に戻った。
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