第13話 ハジメの決心

 俺は何の変哲もない宿屋の天井を見ながらベッドに転がり、繰り返し悩んでいた。


 悩みは、あの隠しダンジョンを攻略すべきなのかどうかだ。

 あの眠りの森ダンジョンが普通の隠しダンジョンだったら、何も悩む必要はない。  

 

 その場合、単純にみんなで攻略すればいい。

 みんなで隠しダンジョンを攻略し、それなりのドロップアイテムや魔物の装具品を売ってしまえば、そこそこの値段になるし、それはそれで有意義だろう。


 しかし、今回は話が違う。

 眠りの森の隠しダンジョンはあの怪しい獣人に唆されて見つけたダンジョンだ。

 何が起こるか分からない。


 特にあのダンジョンにはなぜか魔法石が設置してあり、それを壊すとやけに生々しい夢を見たことが気がかりだった。


 昔の俺だったらそんなことは気にせず、ダンジョン攻略をするだろうし、悩まなかったかもしれない。

 あの時より弱気になったのかもしれないな。

 俺は堂々巡りの考えに「はあ」と軽くため息をつく。


 俺たちは、災厄の魔女を討伐して以来、この街スターティアに帰ってきたのはいいものの、共通の目的を失いつつあった。

 それぞれが自分の趣味や好きなことに時間を費やして、パーティーとして行動しない時間が増えた。


 サキは教会の広報活動という名のアイドルをやっているし、アリスは魔法学校で研究をしている。ユウジは適当なクエストを受けて最近は釣りにハマっている。

 対して俺はクエストをやりながら、サキに振り回され、たまに夜のいかがわしい店に行っている。


 そして、たまにみんなで酒場に集まって現状報告をしたり、とりとめもない話に花を咲かせるのだ。

 この生活がみんなにとっても俺にとっても居心地が良いのは間違いない。


 しかし、平穏すぎると昔のことを思い出してしまう。

 魔女討伐のために各地を転々としてダンジョンを攻略、アイテムやスキルを手に入れるとすぐさま別のダンジョンへと繰り出したあの生活。


 あの時がなんだかんだ一番楽しかった。

 魔女討伐の旅は過酷であるがゆえに、何度も心が折れそうになった。

 直接的には言わなかったが、メンバー内の意見の違いなど苦労は沢山あった。


 幸い、概ね魔女討伐まで俺たちのパーティは力を合わせて協力できた。

 辛かったときも多かったが、あのときの充実感は今の日常とは比べることはできない。

 そんなことを思い返すと、そもそも俺はダンジョン攻略が楽しくてこの世界にハマったのだと再認識した。


 ダンジョン内にどんなモンスターがいるか分からない高揚感、ドロップアイテム、魔物に食うか食われるか分からない緊張感。

 それを求めて俺は旅をしていたのだった。

 

 あの眠りの森のダンジョンに一人で入った時も旅やダンジョン攻略でしか得られない高揚感、緊張感があった。

 この世界に来た当初もそれがあったから充実感があったのではないか。


 そして俺は、転移前の自分についての興味が以前より沸いていた。


 眠りの森の隠しダンジョンを攻略し、魔法石を壊すとなぜか俺は夢を見た。

 あれは本当に夢だったのだろうか、それとも俺が前の世界で体験した記憶なのだろうか。

 俺はそれを突き止めたかった。


 あのダンジョンを純粋に攻略したいという気持ちも確かにあったが、今ではそれと同じくらいダンジョンで見た夢の事が気になっていた。

 もし、もっと下層まで攻略したら何か前の世界のヒントが得られるのではないか。


「そろそろ腹くくるか」


 ベッドから身を起こし一人つぶやく。

 やはり、自分で考え事をしているとたどり着くのはダンジョン攻略の事だった。

 そうと決まったら準備は急ぐに限る。


 それから俺はあのダンジョンを攻略する準備を整えつつ、みんなにあの眠りの森の隠しダンジョンのことを打ち明けようと決めたのだった。


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