第31話:弾む会話
こんなにイケメンで頭が良くて優しい人が自分の息子だったら、きっと誇らしいに違いないのに。
「父が早くに亡くなったので、母が女手一つで育ててくれたんですけど、仕事一筋の人で全然構ってもらえなくて。進学についても何も言われなくて興味がないみたいです、僕に」
「そんな……」
「すいません、暗い話をしてしまって」
蓮は微笑んでいたものの、とても悲しげに見えた。
(ウチの親は支配的で、まったく理解しようともせず、頭ごなしに自分たちの指針を押しつけてきて傷ついた)
(でも、関心を持たれずに放っておかれるのもきっと寂しいに違いない)
「お、お母様は仕事が忙しくて余裕がなかっただけじゃないでしょうか。私なんか大した仕事をしているわけじゃないですけど、家事とかも最低限やるのが精一杯で……」
明日花だったら、今の状態で子どもの世話などとてもできないだろう。
どうやらシングルマザーのようだし、ワンオペで仕事と家事と子育てなんて大変だったに違いない。
(なのに、子どもはこんなに立派に育ってすごいよ……)
蓮が頷いた。
「……そうかもしれませんね。仕事部屋にずっとこもりっきりでしたし」
「仕事部屋?」
てっきり会社員か公務員だと思っていた明日花は驚いた。
「あの、お母様のお仕事は……?」
「本の
「校正!? 校正ってあの、本になる前の原稿をチェックするやつですか?」
「あ、そうです。ご存知ですか?」
もちろんです!
と力強く言いたくなるが明日花はなんとか耐えた。
「あの、私、本とかマンガとか好きで……。それで校正のお仕事も少し知っていて……。すごいですよね、校正のプロって!!」
校正とはゲラ刷りなどの段階で、原稿の記載内容の誤りなどをチェックして正す仕事だ。
もちろん聞きかじりの知識しかないが、仕事自体に興味はあるので明日花は
「作家さんの
テレビの特集でとりあげられていた校正の女性がとても印象的だった。
いわゆる誤字脱字のチェックだけでなく、作家の過去作まですべて目を通していた。
そして、その作家の物語性や独自性を念頭に置きつつアドバイスをしていた。
まさにプロフェッショナルだと、明日花は
蓮が興奮ぎみの明日花に若干戸惑ったような表情になっている。
「小説の校正なんですか?」
校正といっても、ビジネス書や公文書、専門書など幅広い。
「ええ、たぶん小説です。家の本棚には小説ばかりでしたし。ただ、母の仕事部屋には絶対入れてもらえなくて」
蓮が悲しげに微笑んだ。
「小学生のとき、一度こっそり入ろうとしたんですよね。すぐ見つかって、めちゃめちゃ怒られて……」
「プロ意識の高い方なんですね。世に出る前の原稿ですから、扱いは厳重になっちゃいますよね」
「ずいぶん、校正の仕事にお
「いえっ、そんな……」
作家さんのつぶやきや後書きで見た程度の知識なので、語ってしまった自分が恥ずかしくなる。
「あの、とにかくすごい仕事だと思います。根気と集中力がいりますし」
「ありがとうございます」
蓮の気持ちがこもった声に明日花は驚いた。
「そんな風に母の仕事を誉めてもられるのが初めてで……。『校正』ってどんな仕事が知らない人が多くて、興味を持ってもらうこと自体がなくて……」
(読書家やオタクじゃなければそうだろうな……)
(よ、よかった……わかる職業で……)
なんとか会話が
「そういえば、読みましたよ」
「へ?」
「『オカルト学園はぐれ組』を電子書籍で」
「ええっ!!」
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