第28話:カフェでデート!?

 昨晩は疲れ切ってぐっすり寝てしまった明日花あすかだったが、朝ご飯を食べるとさっそく芙美ふみに電話した。


 昨晩のやらかしを話すと、芙美が笑ってくれた。


「大変だったわね!! れんさんがいてくれてよかった」


「うん、おかげで風邪をひかずに済んだよー。で、お礼をしたいんだけど、負担にならない消え物的な何かある……?」


 一応ネットで検索をしてみたが、多種多様なギフトの情報に目がチカチカして何も決められなかった。


「うーん、コーヒーチケットとかは?  蓮くん、カフェで本を読んだりするのが好きらしいから、東京の素敵なカフェを紹介がてら贈ったら?」

「いいね!!」


 チケットなら渡しやすいし、さほど高価なものではないから気楽に受け取ってもらいやすい。


(そういえば、ランチの時もアイスコーヒーを飲んでたな)

(それにしても、芙美ちゃんの情報収集能力はすごい……)


 明日花は開き直って、全部芙美に相談することにした。


「蓮さんって休日はお昼までとかゆっくり寝ているタイプかな?」

「普通に朝方タイプだと思う」


「なんで知ってるの?」

「見ればだいたいわかるわよ。休日もきっちり同じ時間に起きるタイプでしょ」

「そうなの……?」


 明日花には全然わからない。


「たぶん午前中に訪ねても大丈夫よ」

「うん……!!」


 借りた部屋着は洗濯して乾燥中だ。

(返しがてら、コーヒーチケットの話をしてみよう)


「素敵なカフェがあるのって、やっぱり表参道とか青山かな?」

「そうね。銀座もお勧めだけど……蔵前くらまえとかは?」


「蔵前?」

「最近、すごく人気がある場所よ」


 お礼を言って電話を切ると、明日花は蔵前のカフェの検索をした。


「読書にも最適か……。蔵前って素敵なカフェ多いんだなー」


 表参道や銀座も華やかでいいが、落ち着いた雰囲気がある蔵前の方が蓮のイメージに合ってそうだ。


「あ、ここコーヒーチケットある。もし気に入ってもらえたら、プレゼントしよう!」


 カフェの目星をつけた明日花は乾いた服を手に、ドキドキしながら隣室のインターホンを押す。


(ああ、迷惑じゃありませんように!)


「はい!」

 幸い元気な声がすぐに返ってきた。

 名乗ると、れんがドアを開けてでてきてくれる。


(うわ……芙美ちゃんの言うとおり)

 休日の午前中だというのに、蓮はきちんと着替えている。


「明日花さん、おはようございます!」

 爽やかな笑顔が眩しい。


(元気……確かに朝型っぽい)


 シンプルなシャツにジーンズとカジュアルな服装の蓮も、このうえもなく格好いい。

(美しい男性ってすごいな……。勝手に目が惹きつけられるもんね)


「体調はどうです? 風邪引いてないですか?」

「大丈夫です! 服ありがとうございました! で、あの、お礼をさせてください!!」


 断られる前にと、明日花は一歩も引かない気持ちで続けた。


「カフェで読書をするのがお好きと聞いたので、コーヒーチケットをお贈りしたいんですけど、このカフェとかどうでしょう?」


 さっとスマホの画面を見せる。

 我ながら強引で、スマホを持つ手が震えそうだ。


 一瞬戸惑った表情を見せたものの、蓮はスマホを見てくれた。


「蔵前……ですか」

「半蔵門線で、ここからだと30分くらいです。もともとおもちゃの問屋街だったらしいんですが、今はお洒落なカフェがたくさんできているみたいで」


「へえ、素敵ですね。」

「ここのカフェは評判もよくて、コーヒー豆も種類を選べるみたいなのでどうですか?」


「明日花さんはこのカフェ好きなんですか?」

「蔵前自体、行ったことないんです」

「そうですか……」


(ああっ、知らない町のカフェなんか勧められても……って思われたかな!?)


 ドキドキしながら蓮の様子を窺っていた明日花に、思わぬ爆弾が投げつけられた。


「じゃあ、一緒にいきませんか?」

「へ」


「今日は明日花さんもお休みですよね? 天気もいいですし、これからどうですか?」

「ふぇ……一緒に……今日……?」


 突然の誘いに脳がついていかない。

 だが、もともと、チケットを買いに来店するつもりではあった。

 そして今日は特に予定がない。


「あ、じゃあ、はい……」

「今から行けます?」

「え、あ、はい!」


(ひえええ、フットワーク軽い!)

(リア充の人ってこんなに気軽に人を誘うのか!)

(びっくり! びっくりだよ!)


 あわあわしながら、明日花はスマホに触れた。


「じゃあ、お店に予約の電話を入れます。人気のお店らしいので……」


 上京して学んだことは、『人気の飲食店は基本的に予約をしておかないと入れない』だ。

 幸い2名で予約が取れた。


「10時から予約できました! 90分制です!」

「東京の人気のカフェって予約がいるんですね……しかも時間制限まで……」

 蓮がちょっと驚いている。


「そうなんですよ! カフェに限らず人気のお店は予約するのが安心確実です! じゃあ、バッグ持ってきますね! 今から出かければ、10分前くらいに着けますので」


「じゃあ、僕も羽織りもの持ってきます。朝はまだ肌寒いですね」


 いったん、お互い部屋に戻って出かける準備をすることになった。


 急いでリビングに入り、バッグを手にした瞬間、明日花は我に返った。


(え? あれ? 今から二人でカフェに行くの!?)

(休日にお洒落カフェとか、デートみたいじゃない……?)


 『オカルト学園はぐれ組』のデート回が浮かぶ。


 主人公の相方でクールな柊一郎しゅういちろうが、同級生の女の子と二人で出かける羽目になる話だ。


 柊一郎にとっては初めてのデートだが、プライドの高い彼は不慣れだと知られたくないので、焦っていろいろやらかしてしまうコメディ回でもある。


(柊一郎くんの葛藤かっとう、めっちゃわかる……24歳にして初デートとか……いや、デートじゃないけど、憧れの男性と二人きりでカフェとか)


(でも、初心者ってバレないように振る舞って、柊一郎くんはかえって失敗してたな……)

(下手に自分を装うのはやめよう……)


 バッグを手にすると、明日花は廊下を進んだ。


(挨拶するために軽く化粧しているし、服もまあ、これで……)


 明日花が気合いを入れた格好をするのは、イベントのときだけだ。


(カフェに行くだけなら、充分だろう……)


 明日花はドキドキしながら部屋を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る